日時 | 2023年10月20日(金) |
演題 | 長期投資家が社外取締役に期待していること |
講師 | 中尾 彰宏 氏 みさき投資株式会社 マネージング・ディレクター |
講演要旨
1. 長期投資家は企業のどこを見ているのか?
- 投資家は企業が生み出す超過利潤(資本生産性-資本コスト)に注目し、それが持続することで生まれる複利効果に期待している。
- みさきの黄金比とは ROE ≧ ROIC ≧ ROA > WACC である。長期投資家は、これらの指標間のバランスが崩れている状況に可能性を見出し、バランスが取れた状態にすることで企業価値が最大化されると考える。
- みさきの公理とは、V={b×p}m である。この内、pの評価が難しい。経営の外形的なものではない内なるものは、経営者との関係を深めなければ見えてこない。そうした努力をしても時に見誤ることがある。
2. エンゲージメントとは、経営者とどのような対話をしているのか?
- 理想形は、中期経営計画の策定から遂行まで伴走することにある。働きかけるポイントは5つあり、①気づく・知る ②経営者の目線が引きあがる ③改革テーマが定まる ④意思決定する/精度が上がる ⑤やり切る
但し、目に余る行動が出た場合はそれを制することがある。
- 具体的には、それぞれの個社の課題を見付けてそれに焦点を絞り、経営者と一緒に考える特別な関係を築くこと。特別な関係を通じて社内に幅広い接点を持ち、解像度を上げること。解像度の高さを活かして対話・提言の説得力を高めること。そのサイクルを回し続けることにある。
- 株価は、そうした活動をリアルでは評価せず、一定のタイムラグが発生するので粘り強くやり切ることが肝要である。
3. 今後の社外取締役に何を期待しているのか?
- ガバナンス改革の根底には、日本企業のリスクテイクが世界最低レベルにあることだ。稼ぐ力の再興とは、リスクテイクの再興である。
- CEOとは「経済に関する危険を伴う意思決定をする人」である。
- 投資家は、6つのテーマが取締役会で十分議論されているか注目している。
①経営方針 ②M&A ③事業ポートフォリオの再構築 ④大規模投資 ⑤資本政策 ⑥ガバナンス機構の設計
- 社外取締役には助言と監督の両方が期待されている。助言とは計画などの策定に先立って、多様で十分な議論を尽くすべき局面で行われるものである。
- 日本企業によくある健全な意思決定を阻むものは「空気」である。
- 社外取締役は、執行の細部に干渉するのではなく、効果的な質問力を駆使して経営者の動機付けを見直す仕組みを作ることにある。
- 近年は、社外取締役に株主との直接対話が求められつつある。投資家からすると、自らの分析や視点を確認できることにあり、社外取締役にとっては資本市場からの見え方や企業価値向上の課題を把握できることにある。
4. 最後に
独立社外取締役の責務は重くなるばかり。そうした重責を支えるのは使命感しかなく、そうした気概を持つ社外取締役が一人でも増えることが必要だ。又、社外取締役を頼まれたからやるのではなく、自らも企業選びをした方が良い。
Q&Aの要旨
Q1 | エンゲージメント投資家が日本で増える為には何が必要か? |
A1 | 例えば、社員が自社株を持つこともエンゲージメントの底辺を広げる効果がある。 |
Q2 | 社内から多様な情報を取得するためにどうしているか? |
A2 | 例えば、マーケティングに課題があると見た場合、そうした具体的なテーマで社内各層と議論することで、いろいろな情報が入手できることがある。 |
Q3 | みさき投資は投資先の株を売却することで収益をあげるとみるが、具体的どうしているのか? |
A3 | 長期投資≠長期保有。事前に売却する株価の範囲を決めている。投資先の経営者にもその旨伝えている。株価がみさきの企業価値評価より大幅に下がった場合は、再度投資することもある。 |
Q4 | みさきが企業に何か助言する際に、契約を結ぶことはあるのか? |
A4 | コンサルティング契約を結ぶことはない。あるとしてもNDA契約のみである。但し、企業が合意の上で個別に専門家を雇って調査するようなケースでは実費を請求することがある。 |
Q5 | p を見極めるのは難しいとの話だが、失敗例はあるのか? |
A5 | ある。最初は良いと思ったCEOでも後に独裁化することがあり、時間と共に変化するので難しい。 |
Q6 | 投資家から社内事情に精通していない非常勤の社外取締役にもインタビューが申し入れられることはあるのか? |
A6 | ある。但し、ある程度経験のある人にであって、全くの新人取締役にはない。 意図としては、投資家が考えている企業評価が妥当かどうかを検証することにあることが多い。又、会社にガバナンス上の問題が出ている場合は、社外取締役がどのように対処したのかを調べることもある。 |
以 上(平井 隆一)