日時 | 2023年11月29日(水)14:00~16:00 |
テーマ | 最近の不祥事からコンプライアンスを考える ~再発防止と企業文化の重要性~ |
講師 | 五味 祐子 氏 国広総合法律事務所 パートナー弁護士 |
場所 | スタジオ751 + Zoom |
参加者 | 36名(録画視聴者含む) |

講演内容要旨:
1. 最近の不祥事の事例考察
- 大手電機メーカーの品質偽装事案品質に実質的に問題なければ良いとの社内論理と正当化、利用者に対する想像力の希薄さ、工場への帰属意識とサイロ化・タコつぼ化、納期・損益プレッシャー
- 大手芸能事務所問題国内週刊誌報道があっても欧州での報道がある迄長年顕在化しなかった、権力構造の固定化によるガバナンス不在、メディア・広告主・社会による黙認、閉鎖組織と聖域化、人権意識の低さ
- 古典的な不祥事:カルテル、贈収賄など
- 大学、行政機関における不祥事:日大アメフト部問題、防衛省・自衛隊に於けるハラスメント等
- 内部告発のインパクト内部告発による不祥事発覚、改正公益通報者保護法による自浄作用効果が期待されているが通報者への不利益取り扱いに対する不安から通報を控える傾向がある、一方で増加する内部通報対応の為には対応部署の充実と強化が求められている。
2. 不祥事の原因と背景を探る
- 希薄な罪悪感会社の為組織の為顧客の為であり私利私欲ではないとの理屈、皆がやっている、うちの社員は真面目という意識のズレに起因している。
- ムラ社会の論理内輪意識、業界慣行、社内論理、上位下達、同調圧力、ガバナンスの不全
- 摩擦と衝突の回避忖度、ノーと言えない、異論を述べない、強い相手に立ち向かわないという問題がある。
- 変化への不適応と根強い法令遵守アプローチ社会の変化スピードと個人の意識変化の不適応、上に決められたことは守るが自らは将来や変化を見ないといった問題がある。
- 大企業・有名企業の落とし穴右肩上がり時代の成功体験、終身雇用・年功序列・組織の論理
- 変化の兆しはあるのか?内向きでなく外の目を入れる、ダイバーシティは変化の鍵となる、異論を受け入れる姿勢が重要。
3. どうすれば良いか?
- モグラ叩きリスク管理の弊害重厚長大な社内規程やルール作りだけではコンプライアンスが目的化し所謂「コンプラ疲れ」を招く為、日本取引所自主規制法人「上場企業における不祥事予防のプリンシプル」にある様な不正の芽の察知と機敏な対処が求められている。
- コンプライアンスに対するアプローチを変える事業に必要なルールを現場に落とし込み、ステークホルダーの目でリスクを考える。即ち、法令違反でないとしても社会の規範にもとるコンダクトリスクやレピュテーションリスクの様な将来のリスクを想定するフォワードルッキングな姿勢が大事である。組織的不正による不祥事は厳しい経営環境・収益悪化や過度なプレッシャー等により、経営戦略やビジネスモデルに内在したリスクが顕在化したものであり、「コンプライアンス・リスク管理は経営の根幹」という経営目線でのアプローチが必要となる。
- 根本原因の解明と再発防止抜本的な対策がないと不祥事は繰り返される。従い、不祥事の根本原因の解明とその為の最適な調査体制の構築や独立社外役員による自浄作用の発揮等が再発防止の出発点となる。具体的には、役職員の意識・企業風土など根本原因に立ち返り再発防止策を検討する。内部統制の評価やガバナンス上の問題の検証、3Linesモデルの機能強化、内部通報制度の利用促進、エンゲージメントサーベイを通じた会社に対する愛着心の見える化による企業風土の把握、サイロ化の打破とダイバーシティ&インクルージョンの実践、心理的安全性の確保等々の様々な工夫が求められる。その上で、トップのインテグリティ(真摯さ、誠実性、言行一致)のある姿勢や健全な企業文化が風通しの良い企業風土となり、不祥事の発生防止や再発防止に繋がるものと考えている。
4. 社外役員(取締役・監査役)の役割の重要性
- 経営者に対する牽制によるガバナンス強化が重要であり、問題点を見つけるのは難しく、予防に向けた助言やリスク管理体制の有効性に対するモニタリングが求められている。
- 内向き思考にならない為には、ステークホルダーによる外部目線が重要である。
- 外から見ている社外役員には企業文化は良く分かるし、社内の論理から離れて疑問を投げ掛けることが出来る。
- 経営者や経営幹部にインテグリティ(真摯さ)はあるか。例えば指名・報酬委員会の視点で言えば、経営者にインテグリティがあるかという点を評価することになる。
- 社外役員は遠慮せずに情報を得て能動的に動くことが重要である。ダイバーシティの推進も求められる。
- コンプライアンスは企業の持続的成長の基盤であることを理解し、自ら実践することが重要である。
Q&A
Q1 | 大手芸能事務所の問題は犯罪を長期にわたり放置した国やメディアのガバナンスやコンプライアンスの責任が重く問われる事案であり、国やメディアの制度改革が必要ではないか。 |
A1 | ご指摘の点はご尤もであり、メディアも社会も放任してきたことと、被害者が多数に上ったという点で反省すべき事案(某テレビ局より調査報告書が出されたことは一つの成果ではあったが)。創業家の絶対的な権力者による性加害による犯罪であり、違法行為であり特殊な案件と捉えられ勝ちであるが、一般企業でも絶対権力者による犯罪は起きる可能性があり事例としてご紹介した。 |
Q2 | 社外役員をしていると指名や報酬の委員の立場になるが、指名・報酬委員会の関連でご説明されたインテグリティは指名では分かり易いが、報酬に関しては真摯さで成果を測る為には定量化が難しく何等かの知恵や工夫が必要なのではないか。 |
A2 | 報酬に関しては確かに難しい面はあるが、インテグリティを示す項目をコミットメントやコミュニケーションといった項目に細分化してそれが体現されている結果をポイント化する等の工夫をすることになろう。指名・報酬だけでなくトップの解職の様な場合にも、インテグリティに欠けているかどうかが判断基準の一つになると考えている。 |
Q3 | インテグリティ(真摯さ)を細分化して考えるやり方には同感である。本人が幾ら真面目であっても真摯さの方向性が違っていれば経営に対して大きなダメージを与えることにもなる。真摯さというこの一言で社長の有り様を評価するのは難しいと考えるし、企業価値向上には真摯さ以外の視点や課題もあると考えている。 |
A3 | 実践のヒントとしては、自分自身がインテグリティを示せと言われる様に、自分自身が言行一致する様に努めつつ、自らの規範に反した場合は職場の中でお互いに指摘し合う様な行動を通した取組みを行うやり方があると考えている。そうした事例の集積がインテグリティに繋がると考える。 |
Q4 | 常勤監査役に就任していているが、会社側から社外役員に適時に情報開示しているか、また社外役員の問題提起に会社が聞く耳を持っているかという点が重要で、この2点が保証されていないと社外役員の役割を全うできないと感じている。 |
A4 | その2点は重要であり、会社がそうしたことを理解してくれていないと、先ずは理解して貰う様に説明することになろう。それでも理解して貰えない場合は、社外役員を続けられないことになるだろう。 |
Q5 | 電気メーカーや大手芸能事務所で不祥事が発生した訳だが、社外取締役が企業側から情報を得られなかった等、社外取締役がその役割を達成できない経緯や事情があったのでしょうか。 |
A5 | 大手芸能事務所案件では、最初は社外取締役が不在で後から就任したと理解しているが、自分が社外取締役の本来の役割を果たせないと判断する場合は、無理して受諾せずに断るという判断も必要である。電気メーカーの案件では、大規模な組織であり社外取締役に情報がきちんと報告されていたのかという問題がある。弁護士として第三者委員会等で活動していて思うのは、社外取締役への報告が余りにも遅いし、執行側は物事が片付いてから報告するケースが多いということであり、執行側も社外取締役側も重要な事案は確りコミュニケーションを図るようお互いに努力することが重要と考えている。 |
以上(國安 幹明)