DFにとって参考になる神奈川県内の
フレイル予防などの取組み

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連携先の東大IOGジェロンロジーアカデミーの
プロジェクト報告

DFは、すでに申し上げているとおり、東大シンクタンクの高齢社会総合研究機構(IOG)との間で、超高齢社会時代に対応した新たな社会システムづくりが重要になってくると考え、それを踏まえて、さまざまなプロジェクト連携を進めつつあります。

今回、ご報告するのは、東大IOGが企業などと産学連携の形で進めるジェロントロジー(老年学)アカデミープロジェクトのうち、6月28日に開催された「東大IOGアカデミー2024第3回フレイル予防とまちづくり」に関するプロジェクトです。

フレイル予防については、ご存じかと思いますが、高齢者が要介護になる前の虚弱状態、すなわちフレイルを健康な状態に戻すための予防的な取り組みです。

今回のプロジェクトにはDFメンバーも参加しましたが、DFの今後のフレイル予防の取組みに関して参考になりそうですので、その活動内容を少しレポートします。

郊外団地は住民の高齢化が進み、フレイル予防で元気なシニアづくりが課題

プロジェクトの冒頭で、東大IOG事務局長の田中康夫氏は、「いま、首都圏の郊外団地の住民人口の高齢化が急速に進み、ある団地では高齢化率が50%を超え、住民4600人のうち高齢者が2300人、しかもそのうち1100人が75歳以上の後期高齢者となる現実がある一方で、団地を管理する自治会役員のなり手が不足して、自治会活動が機能しないばかりか、住民同士のコミュニケーションも十分とれていない厳しい現実があります」と報告しました。

そして、田中氏は「フレイル予防の取組みを活発化させ、健康で元気なシニアを育てることが急務となっています。その意味でも、フレイル予防を普及させ、高齢社会化などの課題に対応するまちづくりが間違いなく住民に課せられた国民的な課題(自助、共助)になりつつあり、IOGとしては、フレイル予防の活動を国民運動に広げる必要がある、と考えています」と述べたのが印象的でした。

三浦市で体操教室をサロン仕立てなど工夫したら意外にも参加者が増加

これを受けて、神奈川県三浦市の社会福祉協議会で約10年、地域福祉などにかかわる成田慎一氏が現場報告を行いました。成田氏は、田中氏が指摘した郊外団地の高齢社会化の現実を認めながらも、「最近、明るい材料が出てきつつあります。フレイル予防のための体操教室をサロン仕立てに変えたら、意外に広がりが出て参加者数が増えています。我々としては、工夫次第で状況を変えられるのだな、と思っています」と述べました。

また、成田氏によると、神奈川県が未病研究会活動を立ち上げると同時にフレイル普及事業の取り組みを始めたため、三浦市もそのプロジェクトに積極参加、2022年4月にはフレイルサポートセンターを開設し、62人のフレイルサポーターが住民対象のフレイルチェックなどにチャレンジ、また2023年4月には自治体の三浦市主導から住民主体のフレイルチェックが行える枠組みづくりにも着手、カフェなどを活用して健康チェックに踏み出したほか、隣接する横須賀市とも連携してデータ共有させつつある、とのこと。ただ、今後は団地自治会やスーパーマーケットなどとフレイル予防の周知徹底する必要性、介護医療との連携が課題になる、という話でした。

平塚市ではフレイルサポーターが「カムカム教室」で
オーラルフレイルチェック

続いて平塚市のフレイル予防啓発活動に取り組む市職員で保健婦の佐藤麻美氏が活動報告に立ち、人口25万人で高齢化率が29%となる平塚市の場合、公民館、保健センターなどにフレイルサポーターが出向いて住民対象のフレイルチェックを行っている、と述べました。

佐藤氏によると、平塚市ではフレイルサポーターが中心になってオーラルフレイルという、口腔(こうくう)内での食べこぼし、噛む機能の衰えなど虚弱化を防ぐため食べ物をしっかりと噛む「カムカム教室」「お口元気プラス活動」を指導している。ただ、高齢者を中心に活動に広がりを持たせるにはクリニックや薬局にポスターを貼ったり、自治会を通じて啓蒙活動するだけでなく、企業を巻き込んでの取組みが必要だ、という話でした。 

逗子市団地で男性の社会参加が少なくフレイルサポーターが実態把握に苦労

このあと、逗子市池子住民協議会の役員で85歳の高齢の中川隆氏が、高齢者のためのフレイルチェック活動の厳しい現状を報告しました。中川氏によると、アザリエ団地という低地と高台との間で50メートルの高低差がある団地内の2200世帯の住民を対象にフレイルチェックの作業を2017年度末から毎月1回、フレイルサポーター45人の人たちを動員して行っているが、高齢者が多いだけに作業に手間取ることが多いこと、とくに地域内の男性の社会参加が少ないため、男性高齢者のフレイルチェックの実態把握に苦労する、との話でした。

高齢社会化が進む団地で、フレイルサポーターの人たちの努力によって、住民のデータベース化などで実績をあげるのは、涙ぐましい努力だ、というのが実感です。

ただ、医療や介護に頼らないで済む元気な高齢者、アクティブシニアを生み出すためのフレイル予防の取り組みは間違いなく重要です。冒頭でIOG事務局長の田中氏が、さまざまな地域で予防活動が定着するようにがんばっていく、というとおりでしょうが、今後、DFがこのフレイル予防に取り組みにあたって、仮に、自治体と企業や地域社会との「つなぎ役」などを担う場合、今回の神奈川県内の事例は参考になるかもしれません。

東大IOG特任教授の辻氏「住民がアクティブに動くネットワークづくりが重要」

最後に、東大IOG特任教授で元厚労省事務次官の辻哲夫氏が、講評という形で、今後のフレイル予防に関する取り組みの課題などに関して、問題提起されました。以下が、その発言ポイント部分です。

「超高齢化が進み、かつ人口も減少していくという厳しい日本の地域社会で、まちづくりをどう進めていくのか、実に重い課題です。国政のみならず自治体行政、さらに地域社会の関係者の皆さんにとって避けて通れない問題ですが、地域社会の中核におられるお年寄りが元気で、かつ社会参加に取り組んでもらうことが必要です。とくに、平塚市の佐藤さん、逗子市の中川さんらのお話をうかがっていて、住民がアクティブに動くネットワークづくりが重要であること、そして地域社会を改善するためのビジョンづくりも重要になることがよく理解できました。フレイル予防は、そういった意味で、多くの関係者が最も取り組みやすいテーマです。ぜひ、互いに連携して、がんばりましょう」

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