第12回DF環境サロン(環境部会)

  • LINEで送る
日時2024年7月22日14:45~16:30
話題1「セーヌ川とパリ~ 2024オリンピックを控え、河川と都市を知る」
講師廣瀬忠一郎氏(NPOブルーアース会員)
話題2「パリ堆積盆地の地熱資源を利用した地域暖房システム」
講師中西聡会員(900)
場所スタジオ751+Zoom
参加者45名

話題1

パリの歴史と社会の変遷はセーヌ川に影響され、その文化はしばしばセーヌ川とその周辺に展開してきた。廣瀬会員はパリに通算9年間駐在され、元の勤務先キャノン・フランス社の定年退職者Facebookグループ・メンバーと現在も交流中。パリ通の廣瀬氏から以下のような興味深い話を聞くことができた。

  • パリ市の紋章は川を航行する帆船。(帆船は元々、パリの船頭組合の紋章)紋章にはラテン語で「たゆたうとも沈まず」と刻まれている。この言葉はパリが幾多の戦乱、革命などの困難を生き抜いてきたことを象徴している。
  • 9世紀にヴァイキングが2度、セーヌ川を遡上しパリを包囲した。2回目の包囲は1年間続き、ヴァイキングは撤退の条件として、セーヌの通行権と銀貨700リーヴルを取得した。
  • シャンジュ橋には一階部分を店舗(両替商など)にした住居が立ち並び、橋の広場にヴァイキング対策用の要塞が建設された。後に祝祭の出し物として、船乗り達による水上槍試合が行われた。
  • セーヌとパリは祝祭の場として幾度も登場してきた。王政は権力の可視化・正当化のため宮殿の造営、軍事パレードを行い、広場、彫像、庭園、町並みの整備を行ってきた。
  • ルイ13世の戦争からの帰還祝祭(1623年)、ルイ14世の婚儀祝典(1660年)、フランス第2共和制3周年式典を祝うボートレース(1851年)等がセーヌ川で行われた。
  • パリ2024開会式ボートパレードの起点となったオステルリッツ橋は、ナポレオンが露・墺連合軍に勝利した戦いを、終点のイエナ橋は普軍に勝利した戦いを記念して名付けられた。
  • パリ2024の舞台となったエッフェル塔、グラン・パレ、アレクサンドル3世橋は1900年パリ万博に、シャイヨ宮(前面はトロカデロ広場)は1937年パリ万博時に建設された。

2024年パリオリンピックの開会式は、夏季五輪史上初めてスタジアムではなく、セーヌ川で開催される。しかし、「なぜ、セーヌ川なのか」。廣瀬氏の話を聞いて、「パリの新たな祝祭である2024オリンピックの開会式の会場は、歴史的にみてセーヌ川が最もふさわしいから」と考えた方が多いのではないだろうか。
廣瀬氏の話は、ナポレオン三世のパリ大改造、1910年のパリ大洪水、セーヌ川の水質汚染、経済活動と労働の場としてのセーヌ川、セーヌ川と絵画・文学等にも及び、大変有意義なサロンであった。

パスワード付きの
PDFはこちら

話題2

中西さんから、パリ繋がりで以下の話があった。

  • 広大なパリ盆地の1500m以深にDogger層という白亜紀の地層がある。その地層水の水温は60~80℃と高いので、イル・ド・フランス地域圏の地域暖房システムの熱源として、40年以上も前から利用されてきた。
  • 本地域暖房システムは以下の機器で構成される。
    1. 高温水を汲み上げる井戸とポンプ
    2. 熱交換器(地層水は塩分濃度が高く、ミネラルも多く含むのでスケールが発生する。そのため、熱交換器を介して真水に熱を移す)
    3. 高温水の温度を調節する補助ボイラー
    4. 高温水配管網
    5. 使用済み温水をDogger層に戻すポンプと井戸
  • イル・ド・フランス地域圏で54の本システムが稼働している。パリ市とパリ市を囲む3つの県に限っても、33のシステムが稼働中。(2023年)(イル・ド・フランス地域圏はパリ市とパリ市を囲む7つの県から成り、セーヌ・サン・ドニ県はパリ市の北東部に隣接する。)
  • パリの北東20㎞に位置するモー市では、1960年代から重油焚き地域暖房システムが稼働していたが、1980年代に地熱を熱源とするシステムに変更された。2000年、ガスタービン発電機が設置され、本システムは地域熱電併給システムへと発展した。2013年、3坑の高温水生産井の生産量が低下したため、使用済み温水をDogger層に戻す還元井として改修し、新たに3坑の生産井を掘削した。
  • 現在、オリンピック選手村に近い地区で、地域暖房システムの開発が進行している。Dogger層から高温水を生産する井戸の掘削現場で、ブリュノ・ル・メール経済・財務・産業・デジタル主権大臣は以下のスピーチを行った。「フランスは2050年カーボンニュートラル達成のため、あらゆる種類の再エネ資源の開発を行う。Dogger層の高温地層水もその内の一つだ。」
  • 日本にはパリ盆地のDogger層の高温地層水のような熱資源はない。しかし、日本はフランスにはない、発電に利用できる高温の地熱資源に恵まれている。日本はもっと国産の地熱エネルギー資源の活用を図るべきである。(日本の地熱発電導入ポテンシャルは、熱水温度別に、150℃以上で110~220万kW、120~150℃で0.8~17万kW、53~120℃で404万kWと推定されている。いずれのケースも発電コストは現行のFIT以下。)「平成21年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成22年3月、環境省、第6章 地熱発電の賦存量および導入ポテンシャル」
    参照 https://www.env.go.jp/earth/report/h22-02/06-chpt6.pdf
パスワード付きのPDFはこちら
パスワード付きのPDFはこちら

オリンピック選手村に関連して以下の話があった。

  • オリンピック選手村にはエアコンが設置されておらず、50~70mの地下から汲む地下水を利用する地域冷暖房システムが設置されている。(地下水の水温は通年14℃であり、冬は暖房用となる。)本システムはサン・ドニ・プレイエル地区の地域冷暖房システムの一部であり、地下水は3坑の井戸で汲みだされ、使用後の地下水は地下に戻される。
  • オリンピック選手村が建設されたセーヌ・サン・ドニ県サン・ドニ郡サン・ドニ地区は、元々工場が多い地区で治安が悪い。1998年FIFAワールドカップフランス大会の会場となったスタッド・ドゥ・フランスもこの地区に建設されており、本地区再開発の起爆剤とする狙いがある。
  • 本年6月、この地区に隈研吾氏設計の地下鉄新駅が開業した(サン・ドニ・プレイエル駅)。「人と人をつなぐ仕掛けとして設計した」とのことで、サン・ドニ地区再開発の呼び水として期待されている。
  • これに関連し、廣瀬さんから以下の話があった。「サン・ドニ地区は歴代のフランス君主の埋葬地となったサン・ドニ大聖堂(サン・ドニ修道院聖堂)を除き、一般的な観光地ではない。私が勤務した現法会社の本社は、歴史的に左派傾向の強いパリ郊外コミューンの一画、サン・ドニ地区のコミューンにあった。歴史的に貧困層、低所得者の集まるスラム化した工業地区の時代があり、左派、共産党政治家の選出が続いて、共産主義が労働者階級に伝統的に浸透している。フランスでは自動車の車体番号の末尾に県番号をつける。サン・ドニ地区を含むセーヌ・サン・ドニ県の県番号は93。この番号の自動車を見ると、人々はサン・ドニ地区の歴史的事情を想起する。後に本社を隣のオー・ド・セーヌ県(県番号92)に移転し、鼻が少し高くなった。パリの番号は75、都の象徴!

以 上(中西聡)

  • LINEで送る