日時 | 2024年9月4日(水)15:00~17:00 |
テーマ | 「東証のカーボンクレジット市場に係わる取組」 |
講師 | 松尾琢己氏 ㈱東京証券取引所 カーボンクレジット市場整備室長 |
会場 | スタジオ751 + Zoom |
参加 | 45名 |
講演要旨
1. カーボン・プライシング
温室効果ガス削減の為に排出主体に金銭的な負担を求めることによって排出量の削減を求める政策手法。(1)(2)の 2 種類の排出量取引の他に炭素税が代表的な手法。
(1) キャップ&トレード
規制当局(政府・国連)が規制対象者に他者への譲渡可能な排出枠(キャップ)を割り当て、対象期間終了後実排出量相当の排出枠を政府に提出する。実排出量が割当枠を超過している場合は他者から排出枠を購入(トレード)し提出し、実排出量が排出枠を下回る場合には余剰排出枠を市場で他者に売却することが出来る。現在36か国で導入済み。
(2)ベースライン&クレジット
プロジェクト(太陽光発電等の設備設置や森林の保全等)を実施しなかった時の排出量の見通し(ベースライン)に比して、プロジェクトを実施した後の実排出量が削減できた場合に、この差分について他者へ譲渡可能なクレジットが付与される仕組み。クレジット創出は排出義務を負わない者、例えば排出削減義務を負わない途上国がクレジットを創出し、削減義務を負う先進国がこのクレジットを購入することになる。現状このクレジットの大半は、義務ではない排出削減の自主的な報告・開示でのオフセットに使われている。現在 35 か 国 が 導 入 済 み 。 2050 年 に カ ー ボ ン ニ ュ ー ト ラ ル を 実 現 す る に はDACCS,BECCS 等最終的に残ってしまう温室効果ガスを相殺できる除去・吸収系のクレジットが必要とされている。
(3)2つの排出量取引市場
- プライマリー(発行)市場
政府の規制等によって人工的に生みだされた譲渡可能な排出枠やクレジットの発行(購入)を行う市場。 - セカンダリー(流通)市場
他の金融商品やコモディティを売買する流通市場と同じように、相対取引や取引所取引等により売買が成り立つ市場。排出量取引に由来する人工的な商品であるため、商品の性格は各プライマリー市場のルールによって決定される。その価格も市場毎に取引段階で決定するため世界共通の単一価格は存在しない。流通市場取引の特徴として先物取引が中心であることがあげられる。
2. カーボン・クレジット市場
(1)GX-ETS(GX リーグの排出量取引)
GX-ETS(GX リーグの排出量取引)と市場2050 年のカーボンニュートラル実現を目指し、政府は民間企業約 800 社が参加する GX リーグを立ち上げ、2023 年 4 月より GX-ETS を試行的に開始し(第1フェーズ)、さらに 2026 年からの第2フェーズにおける本格的稼働を目指し現在政府において制度設計に着手している。
現在の試行期間の特徴としては
- GX リーグへの参加は任意であり、さらに参加者に法的な削減義務を課すのではなく、自主的な削減目標と削減計画を設定させている。
- 排出枠を最初から割り当てず、実排出量と目標値の差分を事後的に超過削減枠として交付する方法をとっている。目標に達しない場合は市場から不足分を調達し埋め合わせるか未達理由を開示することが求められる。
GX リーグ参画企業が自らの排出削減目標達成の為に東京証券取引所において 2023年 10 月よりカーボンクレジット市場を開設し、「J クレジット」の売買からスタートし、2024 年 11 月から「超過削減枠」の売買が開始予定。今後の候補としては「JCM」がある。
(2) Jクレジット・JCM
ベースライン&クレジットにおいて創出し日本国が認証したものを J クレジットとし、現在70の方法論が認められており随時追加等の見直しが行われている。
現状この J クレジットの大半は、義務ではない排出削減の自主的な報告・開示でのオフセットに使われているが、今後は GX-ETS 達成のための適格カーボンクレジットとして用いることも可能となっている。しかしながら現状年間 100 万トンしか創出されておらず取引量の増加が課題となっている。
また途上国と協力して排出量削減に貢献する 2 国間クレジット制度(JCM)により、途上国の創出したクレジットを市場メカニズムを通して購入して活用することも可能となっており、現在 29 か国と MOU を結び 2030 年までの累計で1億トンの排出削減・吸収量を目指している。
質疑応答
Q1 | 東京証券取引所で CO2 排出量取引で購入したクレジットは、どの様に企業は使うのでしょうか。また、購入できるのは登録した大企業だけですか。排出量取引は売りと買いで成り立つと思いますが、買いのお客さんの実績を教えてください。鉄鋼、化学、セメント等の大企業の買いはありますか。 |
A1 | 現在は J クレジットの扱いだけで、オフセットの需要と GX リーグ企業の目標達成に使用可能だが、現在はほとんどがオフセットに使われており GX リーグの目標達成需要はまだ顕在化していない。売り方はクレジットの創出者からの購入分を売却する金融機関や商社が多く、買い方は間接的に CO2 を排出する電力の消費について再生可能エネルギーのクレジットでオフセットするケース、あるいは、電気・ガス業がカーボンニュートラルプロパンガスと言ったカーボンオフセット商品を発売しているが、採掘から消費するまでに排出した CO2 をクレジットを購入することで±0にするといったオフセット需要が顕在化している。鉄鋼、化学等の GX リーグの多排出企業の需要はまだこれから。 |
Q2 | 鉄鋼業をはじめ製造業などではカーボンプライシング自体に慎重(反対)論が根強いが、排出量取引(キャップ&トレード)を上手く機能させることは可能と考えていいか。ここに特例や抜け道が出来ると市場自体がうまく機能しなくなる可能性が出てくるが。 |
A2 | 排出削減技術の難度等から排出量取引に一番抵抗感が強いのは鉄鋼業であると思われる。岸田首相は一定量の CO2 排出企業には義務化すると言及しており、適用除外は難しい。現在検討中の 2026 年以降の排出権取引市場における本格的制度設計議論において、鉄鋼の様な環境の厳しい業界には一定度配慮することが検討されており、排出枠を多めに配布するか技術開発支援を補助金で側面支援する等の配慮策が検討されている。 |
Q3 | ディレクトフォースとしてお役に立てることがあれば。 |
A3 | 日本ではまだ自分で削減するのではなく、排出量取引でアローワンスやクレジットを購入し削減義務を達成するなりオフセットすることに抵抗感が強いように感じている。 後輩の企業の皆さんにもアレルギーなくフラットに考えていただき、排出量取引も有効な手法として存在することを広く認識していただければと思う。 |
以上(石坂直人)