2024年9月26日、秋の気配が漂う中、私たち日本酒文化研究会+有志は、千葉県長生郡一宮町にある稲花酒造を訪れました。東京から約1時間、上総一ノ宮駅からタクシーで7分の距離に位置するこの酒蔵は、九十九里浜の近くにあり、周囲は稲田と農園に囲まれたのどかな田舎風景が広がっています。
築200年の稲花酒造の建屋は、一見すると農家のように見えますが、その中には歴史と伝統が息づく酒蔵が佇んでいます。飾り気のない外観に、酒林(さかばやし)も見当たらないこの場所には、何か特別なものがあると感じさせる雰囲気が漂っていました。
稲花酒造の歴史と現在
稲花酒造は、約250年の歴史を持つ酒蔵で、かつては2,000石もの生産量を誇っていましたが、現在は250~300石(1石=一升瓶100本)を家族経営で生産しています。年に一度、11月に仕込みを行い、親子を含めた4名の蔵人が丹精込めて酒を造っています。社長の秋場貴子さんは、秋場家の長女で、東京農業大学醸造学科出身の醸造家。あの小泉武夫教授の元で学びました。明治屋での勤務や他社酒蔵での研鑽を経て、約30年前に社長に就任。かつては越後杜氏や南部杜氏を招いていたこの酒蔵も、現在では社長を含む家族が杜氏として酒造りを行っています。卸商を経ない、直接消費者に届けることにこだわっています。
独自の酒造りと商品の特徴
稲花酒造の酒造りには、大学で理論を学び、滝野川にあった国立試験所(現酒類総合研究所)での知見を積んできた社長の方針が、明確に反映されています。特に酵母に対するこだわりが強く、流行を追わず、独自の酒造りを追求しています。また、稲花酒蔵は、「扁平精米(へんぺいせいまい)」の理論を初めて導入し実践した、扁平精米の発祥蔵として知られています。
この扁平精米とは、精米方法の一つで、一般的な精米は米をサッカーボールのように丸く削りますが、これを球状ではなくラグビーボールのように縦長に削るのが扁平精米です。この削り方は「等圧精米」とも呼ばれ、米の形と同じ形で削ることで同じ精米歩合でも球状より雑味の元となる成分が少なくなります。商品のほとんどは無濾過品で、そのままの風味を楽しむことができます。
試飲体験
訪問当日は、吟醸酒、純米酒、純米吟醸酒、古酒など6種類の酒を試飲しました。いずれも無濾過で、各々の個性が際立っていました。秋場社長の明解な説明も素晴らしかったです。


水と米へのこだわり
稲花酒造では、10年ほど前から水道水と井戸水を逆浸透膜法(RO法)でろ過して使用しています。九十九里は日本最大のヨウ素の産地で、増産化により地殻変動が起きて、水源にも変化が生じています。米は全て契約栽培農家から入手し、扁平精米ができる機械を所有する埼玉の精米屋に委託しています。この訪問を通じて、稲花酒造の歴史と伝統、そして現代における挑戦とこだわりを深く感じることができました。
いつか、日本酒文化研究会の例会で講演をお願いしたいものです。
【参加者】樋口、大崎、岡田、萩野、角谷 計5名、
観光立国研究会より七字、千葉大元准教授佐藤氏
以 上(角谷充弘)