第13回DF環境サロン開催

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日 時2024年9月25日14:30~16:30
話題1「地方にある世界文化遺産の持続可能な開発~地方再生・地域社会の役割のあるべき姿」(西井昇会員)
話題2「樹木医から一言」(矢野保会員)
参加者対面とZoom合わせて約30名

話題1

「地方にある世界文化遺産の持続可能な開発~地方再生・地域社会の役割のあるべき姿」(西井昇会員)

西井さんは小学校の環境出前授業で長年活動されてきました。しかし、コロナ禍で出前授業が中止となったことから、都立大学プレミアムカレッジに入学、本科・専攻科・研究生コース、合わせて4年間の大学生活を送り、修了論文を書かれました。論文のタイトルは「地方にある世界文化遺産の持続可能な開発~地域社会の役割についての調査分析と考察」で、今回、その論文を基に以下のような話がありました。

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地方の世界文化遺産共通の課題(「関心の薄れ」と「少子高齢化/過疎化」)
3つの世界文化遺産(① 岩見銀山遺跡、② 平泉~仏国土遺跡群、③ 富岡製糸場と絹産業遺跡群)と、(a)住民参加による取り組みの現状、(b)持続可能へのシナリオ、(c)課題をチャンスに変える提言
3つの世界文化遺産の地域住民による取り組みの特徴
持続可能な開発には、① 社会的使命を伝達する機能、② 住民の間で摺合せ・統合する機能、③ 実践する活力を付与する機能の3つが連携して稼働することが重要

その後、感想/追加情報や意見交換が行われました。

三浦さん:海外からの観光客(主にアメリカ人とイタリア人)の通訳ガイドの仕事をしているが、世界遺産は海外からの観光客にはピンとこない。「なにそれ?」という感じである。一方、日本人は世界遺産が大好きで、日本には世界遺産検定もある。因みに世界遺産の数はイタリアが1番、2番は中国である。世界遺産はユネスコという国際機関によって認定されて権威づけられているが、日本は世界遺産に対して過度な期待をしていると感じている。富岡製糸場は田島弥平旧宅、荒船風穴など4つの絹産業遺産群として登録されているが、それぞれ地理的に離れていて車で行っても時間がかかる。訪れるのに多くの時間や労力が必要な場合、満足感が得られないという問題がある。今まで何十組の外国人観光客を案内してきたが、富岡製糸場に行きたいという観光客はいなかった。

見目さん:世界遺産を生かしたまちおこしには、色々な取り組みがあることが良く分った。世界遺産は地域の学校教育の教材であり、住民の誇りであり、町おこしの観光資源でもある。しかしながら、若者の間に「がっかり世界遺産」という言葉があるように観光資源としての世界遺産には、観光客が抱く期待と現実のギャップが大きいことがある。世界遺産の歴史的価値が良く分り、見に来て良かったと満足してもらえる工夫が必要である。世界遺産を生かした町おこしには住民以外の外からの意見を取り入れることが重要だが、それができていないようだ。

西井さん:世界遺産イコール観光ということには無理がある。観光は世界遺産のもつ要素の一部でしかない。「観光を盛んにするために世界遺産がある」と期待し過ぎると失望につながる。だから、若い人は二度と世界文化遺産に行きたくないということになる。

見目さん:富岡製糸場では、世界遺産を構成する荒船風穴(蚕の卵を貯蔵する)に行きたかったが、足がなく遠くて行けなかった。セットにして観てもらえるように工夫が必要では。

西井さん:わたしもそうだった。私も中核となる富岡製糸場にしか行けていない。富岡の特徴は先ず地域住民が世界遺産登録を主導し、最後に行政が参入してきたということにある。そういう経緯の為か、富岡市には世界遺産のある他の市と異なり、独立した世界遺産観光部富岡製糸場課があって、世界遺産の活用について色々なことを一生懸命考えている。

見目さん:富岡市の世界遺産課には、外国人のスタッフはいますか?インバウンドを意識しているところは外国人を非常勤職員で採用してSNSでアピールするなどしている。

西井さん:富岡には何回も行ったが、私はお目にかかったことがない。富岡製糸場での工女時代を回想して書かれた「富岡日記」(和田英著)」を読んだ。工女をめざす集団が引率者に連れられて「故郷の松代から富岡まで3日も4日も歩いた。碓氷峠を越えて安中まで来ると、ようやく遠くに富岡製糸場の高い煙突が見えた。いよいよ富岡が近くなったと喜んだ。」というような記述があり、大変、印象に残っている。それほど、当時の富岡は製糸工場以外何もない所であった。その煙突(現存する煙突は4代目)は、皮肉なことに劣化のため保存修理が必要になったが、その費用(8千万円)をクラウドファンディングで調達することになった。補修のための予算が充分に残っていないと聞いた。

話題2

「樹木医から一言」(矢野保会員)

矢野さんは環境保全分科会で、平塚ゆるぎの里の里山保全活動をされている。現役時代の仕事は樹木と無縁でしたが、元々、樹木に関心があり、退職後の2015年に千葉大学園芸学部に入学し、樹木医の資格を取得されました。樹木医は1992年に制度化された民間資格で、国家試験の技術士とほぼ同等の扱い。今回、樹木士として働いた経験を基に以下の話があった。

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樹木医制度についての概略説明
植物界での歴史的な出来事(ミトコンドリアとシアノバクテリアの取り込み、腐朽菌の出現、進化過程での寒さに対する防御システム等)
人間社会での街路樹の現状(道交法の規制、窮屈な植栽枡の根)
樹木の省エネと生命力
地下多様性に向けた事例(割竹挿入縦穴式土壌改良法)

その後、活発な質疑応答が行われました。

Q (石毛):「植物は害虫が来ると周囲の植物と会話をして、警告を発したり、防御準備を促したりしている」と多くの学者が言っているが、本当か。

A(矢野):虫に葉っぱを食べられると、ある種の化学物質を空気中に放出して周囲に危険を知らせる植物がある。警告を認識した植物は防衛力を高める化学物質を生成して、害虫被害を予防している。このように植物は周囲の植物とコミュニケーションをとっていると思われる現象がある。地下のネットワークでも菌類の間で同様の会話があり、それが最終的に木に伝わっている可能性がある。

Q (中西):「樹木は菌根菌と共生しており、水分、養分の吸収は菌根菌が作る地下ネットワークに依存している」との話だが、コンクリートで地面が覆われ分断されている都会ではどうか。

A(矢野): 土壌が分断されていても菌根類は存在するが、広いネットワークはできない。また、菌根菌を育てるには土壌を健全にすることが大事である。土壌の状態が良ければ、地下ネットワークは100m、200m先にまでも広がっている。

Q (河井):街路樹はメンテナンスが重要である。自治体はどれくらい費用をかけているのか。

A(矢野):東京都内には約100万本の街路樹が植えられている。おおよそ、街路樹1本の年間維持管理費用は1万5千円、従って年間のメンテナンス費用は150億円程度である。
(詳しくは、H30年度東京都緑化白書参照 )
日本全体の街路樹の維持管理費用は、この7~10倍の1000~1500億円程度。実際上、街路樹全てをメンテナンスするのは難しい。メンテナンス予算を如何に有効に使うかが大事である。

Q (山本):近所に5、60年経った広葉樹の大木の街路樹があり、伐採するか強剪定するか1年近く揉めて、結局、伐採することになった。伐採した跡には小さな木を植えているが、大木の根は残っている。この根っこは生きているのか、今後、近くの水道管を持ち上げるような悪さをすることはあるのか。

A(矢野):樹木は葉が無ければ光合成で養分が生成できず、一切成長をしない。従って葉のない切り株は絶対にそれ以上は成長しない。但し、根が残っていると切り株からひこばえが生えてくる。ひこばえの葉がある限り根はなかなか死なない。しかし、ひこばえの光合成程度では根は大きくなることはなく、水道管を持ち上げるような悪さはしない。根っこの真ん中に穴を開けて除草剤を入れれば根は完全に死ぬが、土壌汚染の心配があるのでお勧めしない。従って、心配ならひこばえを徹底して切り取る事である。

Q (三浦):年輪は木の中の方から出来てくると思っていたが、心材は死んでおり生きているのは外側の数ミリの部分という話であった。年輪はどのように出来、木はどのように成長するのか。

A(矢野):生きているのは木の外側(内樹皮、形成層)だけで、木はこの部分から外側方向に向けて肥大成長し、内側に向けて古い組織を残していく。その生長過程での気温の変化で年輪ができる。そのため、心材が腐って中が空洞になっている古木でもしっかり生きている。余談だが、外見は全く問題がないのに中が根元まで腐っている木で、風もないのに突然、倒れたりする。ベッコウダケという腐朽菌は広葉樹の根や根株の心材を腐らせ、例えればスポンジのような状態にする。木の根元部分に診断用の鋼棒を突き刺して腐朽状態を探るが、腐っているとキュウキュウという音がする。しかし、このような検査を総ての木に実施することは不可能で、倒木事故を防ぐのは難しい。

Q (石毛):最近、台風で樹木が倒れて電線が切れたり、道路が塞がれたり、大変なことになっている。根が弱いから倒れるのか。

A(矢野):直立している木が倒れるのは、根の張りが弱いからでもあるが、傾斜している木は自重で倒木の可能性がある。但し、殆どのケースは先に触れた腐朽による。

Q (岡田):横浜に住んでいるが、最近、近所のあちこちの公園で木を伐採している。どういう判断をしたのか分からず、当惑している。伐採は必要か。

A (矢野):木を残すだけが能ではない。木を切って生えてきたヒコバエを成長させ、その木のDNAを維持しながら樹木更新をするのも一つの方法である。反対に、街路樹ではどこの桜も切ったためしがなく、樹木の管理上は大変問題だと思っている。いずれにしても、住民の方が相談し、自治体にどのような理由で切ったのかを確かめてみると良い。フランスの例だが、大規模地域開発の際、樹木管理を含めてどうするかについて、住民と一緒に考えている(コンセルタション制度)。日本の場合、都市開発に於いては事前検討の公開が後手に回り、往々にしてボタンの掛け違いが多い。豊かな緑の街を実現するためには、自治体と住民が100年後の姿を考え、計画的に公園や街路樹の整備計画を立てることが大事である。

以上(中西聡)

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