日時 | 2024年11月29日(金)14:00~16:00 |
場所 | DFスタジオ751+Z00mのハイブリッド方式 |
テーマ | 長期投資家からみたアクティビズム |
講師 | みさき投資株式会社 マネージングディレクター 中尾彰宏氏 |
聴講者 | 33名(後日視聴した者を含む) |
講演概要
(1)「PBR1倍割れ解消」の背景にある本質的課題とは?
①「PBR1倍」は、長期投資家からみれば、「価値創造企業」と「価値破壊企業」の分岐点だと考えている。超過利潤を複利で運用すれば、企業価値は時間とともに大きく成長するが、マイナスであると、企業価値を破壊することになる。
② 日本企業は欧米に比べ、PBRが低く、PBR1倍割れが半分程度で、その傾向は最近もあまり変わっていない。PBRは、ROE×PERで示されるため、大事なのは、「ROE8%超」に加えて経営のクオリティを表すPERでもある。
③ PBR1倍割れの企業の80%は、時価総額1,000億円以下の企業である。又、業種によって偏りがあり、「市場構造の問題」「産業構造の問題」「個社の問題」に分けて解決を図るべきだ。業界レベルの問題は、個社レベルでの対応には限界がある。
(2)アクティビストの論理とアプローチ
① アクティビストの数は、この10年で9倍に増え、それに従い株主提案の数も3倍となった。
② アクティビストの基本戦略は、潜在的な企業価値を株価へ反映させることを通じて、投資リターンを得ることにある。アクティビストの典型例には、監督機能不全に対する責任を追及する、理論的に明らかな財務の歪みを指摘する、といったアプローチがある。但し、最近では花王の例のように、優良企業と目される企業にも、弱点を探してアプローチする動きが出ている。
③ 最近話題になっている、7&i HD vs バリューアクトの件だが、会社の事業戦略の基本が問われており、今まで決断を先延ばしにしてきた付けが出たケースとみている。
④ アクティビストの最近の潮流は、一定のリテラシーがあれば誰でも気づくことができる本源的価値と価格のギャップのみならず、企業の「フルポテンシャル」をターゲットとしたプレイヤーが登場していることだろう。これは、本来投資家の王道と言えるアプローチだ。
(3)企業経営者は、資本市場・アクティビズムにどう向き合うべきか?
① 日本企業は、欧米企業に比べ、創業以降年月が経過して、企業経営の形態が変化するにつれて、クオリティの高いリスクテイクが連鎖できていない傾向がある。
② これを避けるには、CEOに執行権限を集中させ、指揮命令系統をクリアにしなければリスクは取れないわけで、その分経営を監督する取締役会の役割が重要になる。従って、取締役会を単に多様化すれば済むという単純なものではない。
③ 価値を創造する取締役会がチーミング、情報、ファシリテーションの3つの基盤に基づいて、「二重のサイクル」を回しながら、決断していくことが重要だ。正しい「状況認識~議題設定~意思決定」なしに、価値創造はないと知るべきだ。
(4)まとめ
① 資本コストを上回らない「価値破壊企業」に対する風当たりはますます厳しくなる。そして、今後は個社の自助努力だけでは解決されない「産業構造」「株式市場構造」レベルに踏み込んだ課題解決が焦点になると思われる。
② アクティビストに対する最大の防衛策は、「企業のフルポテンシャル」に合わせて株価を高めておくこと。その為には、不採算事業の撤退、持ち合い株の解消、財務規律の整備といった「規定演技」のみならず、企業の長期成長戦略そのものの刷新、いわば「自由演技」が極めて重要。
③ CEOのアニマルスピリットはもちろんのこと、決断と断行を通じて「価値を創造する取締役会」への進化が重要であり、投資家との積極的な対話を通じて磨き上げていくことを願っている。
Q&A
Q1 | 執行役員会と取締役会で同じ議論をしているが、役割分担をどう考えたらよいか? |
A1 | 会議体の役割分担は、会社によってそれぞれで、あいまいなところも多く、日本の企業での取り組みは未だ発展途上とみている。取締役会に期待される議論は、会社の価値創造のために状況に即した議題設定を行い、正しく意思決定することにある。社外取締役が執行側の協議の場である経営会議の議論に参加することは馴染まないが、経営会議の録画を視聴する等の方式で議論の内容を把握、理解しておくことが推奨される。 |
Q2 | 個々の会社が、産業構造の変化に対応するにはどうしたらよいか? |
A2 | 誰がこの課題を解決できるかは難しい。経産省などの国レベルでの取り組み、業界のリーダーが率先垂範する、個社が思い切った事業改革を通じて変革するなどが考えられる。資本市場からのプレッシャーは必要だが、いちファンドだけでが何かできるかというと果たせる役割は限定的だ。 |
Q3 | 日米で営業キャッシュフローを使ったリスクテイクに差が出ているのはなぜか? |
A3 | 資金の裏付けがないリスクは取りづらいのが一般的で、確かに日米の企業では、投資への挑戦に大きな差が出ている。企業経営や、事業リスクに対する考え方に対して、日本企業は営業キャッシュフローの範囲内でリスクテイクを行うという保守的な傾向があるのは確かだ。 |
Q4 | α値を目指す取り組みをする際に、同じ業界だけを見ていてよいのだろうか? |
A4 | 業界のみの知見に頼ろうとすると、なかなか脱却できない。例えば、みさき投資は複数の業界の会社に投資しており、様々な業界の勝ちパターンに知見を持っている。従って、そうしたファンドの助言を聞くのも一つの手ではないか。 |
Q5 | 取締役会の価値を創造するサイクルについて話があったが、その為に取締役会事務局の果たす役割は大きいように思う。どう考えるか? |
A5 | その通りで、単に事務処理を行う事務局ではいけないのであって、優秀な適材が配置された組織をCEO/議長自らが考えるべきであろう。 |
講演終了後、場所を変えて講師と参加者が懇談した。
以 上(小谷雅博)