日時 | 2025年1月22日(水)15:00~17:00 |
講師 | NHKニュースデスク・キャスター 山崎淑行 氏 報道記者、デスクを経て現在ラジオ第一放送「NHKジャーナル」解説キャスター。一貫して原子力を始めとするエネルギー、宇宙、環境などを幅広く取材。 |
会場 | DFスタジオ751+Zoom |
参加 | 72名(講演資料配布人数) |
1.第7次エネルギー基本計画
昨年12月、第7次エネルギー基本計画が策定され、2040年の電源比率について、現状7割を占める火力を3~4割に減ずる一方、現状2割の再エネを4~5割、現状1割弱の原子力を2割に増やすことが示された。今回の基本計画の焦点はいくつがある。1つは再生可能ネルギーを最大限活用していくとした点。はじめて主力電源の1つに位置付けられた。もう1つは原子力。こちらも再生可能エネルギーと共に最大限活用していくとし、
福島の原発事故以降の基本計画には必ず記されていた「原発依存度を低減する」との文言がなくなった。今回の基本計画、簡単にいうと、温暖化対策とエネルギー確保の観点から、再生可能エネルギーと原子力の“二枚看板”で政策を形成していく、というものになっていると言える。では、少し個別内容を見ながら、政策の盲点はないかを考える。
(1) 火力
東日本大震災によって原発の発電が激減した結果、現状では石炭やLNGによる火力発電が発電の中心となっている。最新火力発電は二酸化炭素など温暖化ガスの排出はかつてと比べ大幅に減っているのは事実。また、バイオマス燃料を既存の火力発電所で燃やす技術も開発されている。日本政府は火力発電の引き続きの利用は示している一方、脱炭素の観点から発電割合は減らしていく考えだ。
(2) 再生可能(自然)エネルギー
日本の最新データでは再生可能エネルギー導入は全体発電量の2割となり、EUと同水準にまで追いついてきた。基本計画では今後、主力電源として2040年に向けさらに普及に力をいれるとしている。その切り札が、折ったり曲げたりできて、湾曲した壁や屋根などこれまで不可だった場所にも設置が可能なペロブスカイト太陽電池の普及だ。日本発の技術で現在、各国が実用化を競っている。この競争に勝って普及を急ぐ必要がある。そして、もう1つの柱と位置付けられているのが洋上風力発電。ただ、資材や人件費高騰で建設コストが上昇、さらに遠浅の海域の少ない日本では浮体式の風力発電がポイントとなりコスト面での課題をどう乗り越えるかが今後のカギとなる。
また政策全体の課題の1つとして、太陽光と洋上風力以外の自然エネルギー活用にも目配りを忘れないことだ。地熱の潜在エネルギー量は世界3位だが、発電施設導入は世界8位と後れを取っている。また、太陽光と並んで家庭や事業所でも使える小型水力発電、小型風力発電、太陽熱温水、地中熱利用なども普及に大いに余地がある。さらにる促進策を強化し、再生可能エネルギーのそれぞれのプレーヤーを底上げすることが、自然環境の多様性に恵まれた日本の優位性を確立することになる。特に自然エネルギーは燃料費が無料。海外事情や為替に振り回されることはない。その意味は大きい。
(3) 原子力
福島の事故以前はベース電源、基幹電源として利用されてきた原子力発電。事故後に廃炉や運転停止などが進み発電割合は1割にも届かないレベルに減少した。今回の基本計画では2040年度には2割程度まで増やすとしているが、実は簡単ではない。政府は基本計画で新設の要件を緩和したが新設には最低でも10年以上の時間と莫大なコストが必要と言われており2040年には間に合わない。必然的に廃炉になっていない既存およそ30基を活用しないと達成できない。それにむけて再稼働についていうと去年後半は大きな動きが相次いだ。福島で事故を起こした東電と同タイプ(沸騰水型)の原発である女川原発2号機とそれに続いて島根原発2号機が昨年秋から冬にかけて再稼働した。また高浜原発が国内で初めて去年秋に50年超運転に突入した。現在の運転延長は規制ルールで最長60年までとなっている。今後、長期運転原発は増える見通しだ。2040年までに4基、2040年代には13基が60年超となる。長期運転の安全性は確保されるのか、そして新設に国民的な理解は得られるのか、建設の膨大なコストはどうなるのか、そして、核のゴミの処分未決定など核燃料サイクルそのものの長年の課題に筋道は示されていない。またもや根本課題は先延ばし? こうした点をどう説明して対応していくのか、問われているのではないだろうか。
2.原子力業界の体質は変われたのか?
基本計画で最大限活用を掲げた原発だがその実現は簡単ではない旨を記した。そして現場を取材していてもっとも危惧しているのがソフト面だ。つまり業界の安全文化やそれを担保し醸成する業界の構図だ。そこは変われているのか? 原子力分野の構図でいうと、事故後に規制部門は大幅に見直しがされ強化された。保安院は解体され、原発推進官庁の経済産業省から独立した規制庁ができた。そして規制基準も世界水準で強化された。ただ、そのほかこと、例えば電力会社やメーカーの位置づけや力関係、地方自治体と国の関係性などの業界の構図はほとんど変わっていない。なにより特徴的なのはステイクホルダーの多さである。国の根幹である電力供給は法律で定められた国策であるがゆえに国会(与野党)政府(経産省、環境省、文科省等)が深く関与するとともに、民間の各電力会社、巨大な施設を作り保守整備を担う巨大メーカー、その下の多数の協力会社、下請け企業がぶら下がる。また、地方自治体、議会、地元住民、賛成反対のNGO、時に立地地域の漁業や農業団体なども意見を聞かれる。学者も国の委員会などで登場する。非常に多くの関係者が関わるわけだ。こうして多数になればなるほど、情報の共有、意思疎通と意思決定、そして責任の所在、そうしたものはより難しくなるものだ。また、各ステイクホルダーはそれぞれに置かれた立場が違う。損得がある。つまり原子力分野の全体最適を実現するのは一筋縄ではいかない。福島の事故の後も、組織間の情報共有の欠落や方針の不徹底などちぐはぐさが散見される。再稼働を目指す柏崎刈羽原発での作業ミスやテロ対策問題などでも垣間見られた。福島の廃炉現場でもあった。もちろん廃炉は技術的に困難なものではあるのは理解するが、情報共有や連絡の不徹底、またメーカー任せなどが起きている。福島の事故の遠因となった要素だ。安全文化の観点から原子力業界は変われているのか? 第7次エネルギー基本計画の審議の中で、こうした本質的なソフト面の課題については話し合いがほとんどされなかった。安易な原発回帰は別のリスクを間違いなく増す。もう二度とあのような原発事故を起こしてはならない。


質疑応答
以 上