日 時 | 2025年2月19日(水)14:00~16:00 |
会 場 | DF事務所スタジオ751+Zoom |
テーマ | 「最近の社外取締役・監査役の実務課題」 ―サステナビリティ経営と社外取締役の役割の変化― |
講 師 | 三優監査法人 名誉会長 杉田純氏 |
参加者 | 43名 |
講演概要
本編として、以下の11に及ぶ大項目について説明があり、補足資料編としてお送りいただいた資料にも、適宜、言及された。
前段
- サステナビリティ関連が増加しており、色々な省庁がレポートを発信している。国際会計基準財団も動いていて、毎年大きな変化が起きている。
1. 激変する経済環境
- GDPは好調。企業業績良く、企業投資堅調。外需も好調だが、国内個人消費低調
- トランプ関税は影響大。自動車関税5→25%へ。日本の輸出の1/3が自動車
- 米国では輸入物価が上昇して、景気後退の可能性も。日欧は投資抑制になる
- サステナビリティ経営が大きなテーマになってきており、企業は対応が大変である
2. 2021年のCGコード改訂と取組み
- 多様性についてのトランプ発言は米国が先進だからで、日本はまだまだ遅れている
- 取締役会のサステナビリティ取組強化は、社外取締役が導く役割を担うべきである
- 監督の意味が変化して、不祥事発見だけでなく不作為のリスク提起も監督である
- 社外取締役の役割が監督に重点なのは大企業に多く見られ、意思決定の機能強化にも関与するのは中小企業に多く見られる
3. 2024年上場企業の独立社外取締役の選任状況
- 東証プライム上場会社では98%超が独立社外取締役1/3以上を達成済み
4. 監査役会の実効性評価の実態と開示の状況
- 実効性評価は具体的な指標できちんと示すべきである。監査等委員会でも同様
5. 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応
- 単純に利益が増加していればよい物ではなく、株主を意識した経営のことである
- 対応が大変なせいか、昨年、96社が上場廃止。新規上場は86社であった
- 資本コストの把握が必要であり、無形資産創出につながる投資・事業のモニタリングを通じた評価も望まれている
- 21年3月期のプライム上場会社の平均がROE8%割れ、45%がPBR1倍割れ 投資家との対話には社長と社外取締役は同席すべし。投資家は株主の代弁者である
6. 投資家の視点を踏まえたポイント 好事例
- 大林組:資本効率性をより重視して目標を引き上げ、株式市場と向き合う姿勢
- コニカミノルタ:経営者が市場との双方向のコミュニケーションを重視
- 日本特殊陶業:事業撤退ルールを設定し、不採算事業見直しを行う
7. 人的資本経営
- 可視化指針開示義務は現在6項目だが、今後増加していく
- ISO30414は人材版伊藤レポートと合わせての利用が可能
- ISO30414は可視化が容易な項目多く、欧米系はそれに慣れている
8. SSBJ開示基準案
- 日本版サステナビリティ基準案で時価3兆円以上の企業から開始
- 本体だけでなくサプライチェーン全体の取引先も対象になる
9. 我が国のサステナビリティ開示制度の改訂状況
- 2025年3月に基準が確定し、2027年3月決算より時価総額3兆円以上の企業から適用される予定であるが、対応が多くの企業に求められる可能性があり、今後に留意が必要
10. 新リース会計(借り手のリース)のインパクト
- オペレーティングリースは解約不能・可能を問わず、少額・短期を除きBS計上が必要になる
11. 2024CGCのフォローアップ課題
- 取締役会実効性向上、女性役員比率目標等が挙げられている
質疑応答
Q1 | 東証の株主重視政策の中で株主総利回りはどれくらい重視されているか? |
A1 | (東証の政策は)PER向上が主で成長性に重点があり、TSRはその結果である。資本収益性は複数の指標の組合せになっている。 |
Q2 | トランプの反ESGは、エリートによる理屈の経営に対する疲労感や反発が背景にある。SSBJやISOは欧州発であって、米国企業は元々あまり受け入れていない。日本企業が今後目指すべき方向性をどう考えるか? |
A2 | むずかしい。一年は我慢だろう。トランプ人気が落ちるかもしれない。ビジネスマインドが強い人なので、こちらも交渉に強い人を当てる必要がある。 |
Q3 | 資本コストと株価を意識した経営と言われてから、大変良い結果が出ている。これをどう評価するか? |
A3 | ラッキーであった。実力は伴っていない。たまたまそうなっただけある。 |
Q4 | SSBJでサプライチェーンに含まれる中小企業はとても対応できないのではないか? |
A4 | 大企業が指導して開示できるようにするしかない。 |
Q5 | 投資家との対話等に臨むにあたって社外取締役の心がけるべき点を3点教えてほしい。 |
A5 | 自分の得意分野を強化すべきだ。全般的な質問に答えるのは社長の仕事。自分の担当外は他の役員に振れば良い。 |
Q6 | 社外取締役がありたい会社像について発言することについてどう考えるか? |
A6 | 大変デリケートな話。対外的に話す前に、まず社内の信頼関係構築を優先すべきである。 |
Q7 | 変な質問をする機関投資家もいるので、機関投資家に対して会社側から見た格付けすると言うのはどうか? |
A7 | これから出てくるかもしれない。変な質問は答える内容でないと断れば良い。 |
Q8 | 「監督」の定義に加えられた不作為のリスクは非常に重い。社外取締役の役割にした理由は何か? |
A8 | 裏は特にない。社内役員では社長に言えない。社外取締役しかいない。外部の専門家に言わせるという手もあり、米国ではよく使われているようだ。 |
Q9 | 開示はやらされ感あると辛い。投資してもらうから説明すべきというのは判るので、投資家が開示内容を本当に希望しているのかを確認できると良いが? |
A9 | 開示内容はロンドンの国際会計基準審議会で決めている。国ごとに取り組みに遅速はあるのだが、企業評価は同じ基準であるべきである。 |
以上 (世話役 猪野久仁朗)