日本は超高齢化対応とともに
長生きを喜べる長寿社会めざせ
ニッセイ基礎研究所 前田展弘氏がDF会合で強く問題提起

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日時3月6日(木)
テーマ超高齢未来の課題と新たな取組視点
~長生きを喜べる長寿社会の実現に向けて~
講師前田展弘氏 ニッセイ基礎研究所上席研究員
場所スタジオ751 + Zoom
参加約40名

日本は世界で突出した人口の超高齢社会国。さまざまな課題にチャレンジし、超高齢社会対応すると同時に、長生きを喜べる長寿社会の実現をめざすことが必要ーーと、ニッセイ基礎研究所上席研究員で、高齢社会問題研究の専門家、前田展弘さんが、ディレクトフォース(DF)との3月の会合で問題提起しました。

超高齢社会時代に対応した新たな社会システムづくりが今後、重要になるため、ぜひお話を聞かせていただきたい、というDF超高齢社会問題研究会やDFメンバーの要請に応えての講演・交流会合で、前田さんが述べたものです。

このうち「高齢者4割社会」については、2050年以降、現在の少子化の動向が変わらない限りは、この割合が常態化していく見通しであるだけに、今後、人口の4割を占める高齢者が、どのように高齢期を安心かつ希望をもって暮らしていけるかが、日本の未来のありようを変えていく重要なポイントであることは確かです。

前田さんは、高齢者が75歳以上の後期高齢になる状況が今後、さらに進み、2036年ごろに「85歳以上1000万人時代」が到来するのは確実な状況で、当然、それに見合った社会システム設計が重要課題になってくること、85歳以上になれば、介護や認知症の問題を抱えながら、独り身となる人が多くなるので、それら高齢者を、どう社会が支えていくか、いけるか、という問題が重要になることなどを強調しました。

その場合、地域の支えあいの仕組み、端的には地域包括ケアシステム、地域共生社会などの充実に加えて、民間企業が、こうした社会課題の解決に積極的に参加、協力していくことが必要となってきます。前田さんは、その点に関して、民間による「生活支援コーディネーター(仮称)」制度の枠組みをつくり、孤老の人などをサポートする、といった制度設計が必要になる、と指摘しました。

高齢者人口が多くなれば、それに見合って高齢者消費にとどまらず、高齢者ニーズなどに対応した市場づくりが必要になってくるため、いわゆる市場の創り直しという問題が重要課題になってきます。

その点に関しては、前田さんは「若い世代もいるので、高齢者市場がすべて、というわけでない。しかし、日本の高齢者は、他の年代よりも相対的に保有資産が大きいことを加味すれば、高齢者消費によって、高齢者市場が有する経済成長のポテンシャルは大きくなる」とも述べました。

高齢者層といっても、比較的富裕な階層とそうでない層があり、最近はその格差が広がって社会問題化しているため、企業の対応も難しい面がありそうです。ただ、今後、高齢者が人口の厚みを持ってくるようになれば、企業が、高齢者消費市場をターゲットにサービスや商品開発を進めるのは、重要テーマです。

現に、評論家の大前研一さんは、課題山積の超高齢社会市場をネガティブに捉えず、シニア向け市場をビジネスの場として位置づけ就業支援、住宅リフォーム、フィットネス、家事支援、リハビリ、終活などエンディングといった形で「シニアエコノミー」ビジネスの創出やシニア消費市場の掘り起こしを提案されています。そういった点で、シニアエコノミー、高齢者消費市場を通じて、日本が健康長寿大国をめざすことは重要な方向付けでしょう。

最近、日本では高齢社会化対応のからみで、フレイル(加齢による心身虚弱状態)予防のチェック体制が社会に浸透し始めています。とくに、DFと連携する東大IOG(高齢社会総合研究機構)は、超高齢社会時代対応という面で国民運動にすべきだ、という問題意識をもとに、自治体と協働で積極活動を展開中です。

現に、日本ではこのフレイル予防を含めて、さまざまな取り組みが政治、行政、大学、民間企業、社会活動組織などで進んでおり、高齢社会化の社会課題の解決に苦しむ中国やタイ、ベトナム、シンガポールなど日本の周辺のアジア諸国の関係者の間では、日本が学びの対象となっていることは事実です。

前田さんは、この点に関して「日本が、健康長寿社会づくりに向けて先進事例をつくり出す国だ、との評価が高まれば、高齢社会化の社会課題の問題解決に苦しむアジアの国々から日本に行って学びたいと言われる可能性は十分にあり得る。それらの国々と日本の交流が増えれば、回りまわって日本の経済成長につながっていく」と述べています。

前田さんの数々の問題提起のあと、DFメンバーからも活発な意見や提案などが出ました。中でも、DF健康医療研究会代表の江村泰一さんから事例紹介のあった所沢市民大学は、所沢市と市民の協働という形をとっているもので、興味深いものでした。

この所沢市民大学事例に関連して、事例紹介があったのは、神奈川県が主催する「かながわ人生100歳ネットワーク」というプラットフォームです。神奈川県内の自治体、民間企業、大学、NPOなどが連携してつくる組織で、ここでは人生100歳時代に必要なさまざまな社会のイノベーションを協働で取組むことをめざして活動している、という話です。

DF側の問題提起で、議論が弾んだのは、企業で65歳まで勤め上げて定年退職したシニアの人たちがまだ働きたくても働く場所がなくて困る「定年後の空洞化問題」でした。

越後屋秀博さんは、「75歳以上の後期高齢者であっても、心身ともに元気なうちはまだ働きたい、という方が多い。もちろん、ゆっくり残りの人生を悠々自適で趣味、ボランティア活動で生きたいと思っている人が多いのも事実。ただ、75歳、人によっては80歳までは働いた方が幸せだと考える人はいて、そういう人は知見、知識が豊富だし、IT技術だって若い人とそん色なくできる。それらの人には賃金も、能力に見合ったものにしていい。私は、そのためにも定年廃止を早急に実現すべきだと思う」と問題提起しました。

この点に関して、DFメンバーの中からは「米国では AGE FREE という形で、年齢にかかわりなく働ける社会をめざす考えがある。現に、雇用における年齢差別を法律で禁じており、日本が世界の潮流から遅れていることが問題だ」との指摘もありました。

日本では年金支給開始年齢の引き上げとからめて、高齢者雇用安定法で、企業に対し65歳までの雇用確保義務、70歳までの就業確保努力義務を打ち出しているが、現実は、企業の現場判断に委ねられ、米国の AGE FREE の考え方とは対照的な状況です。

越後屋さんは、「少子化や人口減少が進む日本で、高齢であっても働きたいという高齢者の労働市場に関して、国が旧態依然の考え方で対応していてはますます世界の成長から後れることになる。日本は、高齢者の労働力確保にも注力すべきだ」と重ねて主張しました。

ただ、現状の日本での問題は、企業サイドがどこまで高齢者の雇用延長、定年延長に応じるか、という点です。企業側は、賃金コスト負担回避を優先して、雇用延長などにはネガティブです。この点に関しては、高齢者の側に特別の技能や技術があれば、むしろ企業の側にとっては後継者への技術移転を含め、それらの高齢者へのニーズが強まるケースは十分あり得ます。このため、高齢者側が自らの「強み」をアピールすることも重要になります。

前田さんは専門家の立場で、アクティブシニアが多いDFの果たすべきミッションに関して、「年齢にかかわらず、いつまでも社会の中で交流し活躍し続けることが健康長寿の実現にとって重要な中で、DFの活動は素晴らしい。超高齢社会時代に対応して、今後、活動領域を広げるべきだ」と、4つの問題提起を行いました。

1つは、DF主導で定年前の50~60代の層を対象に「定年予備校」(仮称)をつくり、定年後の活躍を促しサポートする事業の構築ができないか、2つめは、地域で福祉や子育てなどにとどまらず地域で必要とされる「地域人財」を洗い出し研究を行ったうえで、その現場に入って体験していくことで、新たな自分のやりがい発見につながるのでないか。

3つめは、DFが新たなシニア市場に特化したコンサルティングを主催したり、リード役を果たすことが出来れば素晴らしい。80代、90代の高齢者が楽しめる商品サービスの市場が少なく検討価値がある。4つめは、DFが社会貢献する視点として、世の中に見受けられる「当たり前(の変化)」を見直すような提言を行うこと、高齢者に優しいエイジフレンドリーな社会にしていくには、高齢者からの「声」が必要で、その面でもDFには知見、問題意識が旺盛なので、「世直し活動」も重要になるのでないか、というものです。 

前田さんの問題提起は、DFにとって、極めて参考になるもので、外部専門家との交流会という点では有益だ、という声がDF関係者の間でも多かったです。

【参考1】高齢社会対策大綱 ニッセイ基礎研究所 研究員の眼 2025-02-13
【参考2】高齢化と経済 月間資本市場 2024年7月(No.467)

以 上(超高齢社会問題研究会代表 牧野義司)

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