第14回DF環境サロン

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日 時2024年2月14日(金)14:30~16:30
話題1「安比地熱発電所」 望月晃会員(1207)
話題2「八幡平スマートファーム」 兒玉則浩会員(1216)
場 所スタジオ751 + Zoom
参 加対面とZoom 計約35名

望月さん(元 三菱マテリアル)の話は、技術部会での報告をもとに、以下の通り。
安比地熱発電所(発電出力:14.9MW)の概要

  • 開発経緯(2000~2003年:NEDO開発調査、2004年:三菱マテリアル/三菱ガス化学事業化検討開始、2015~2018年:環境影響評価、2018年:J-Power事業参加、2019年:建設工事開始、2024年:営業運転開始)
  • 発電所設備 ①蒸気生産井(4坑、10億円/坑)、②気水分離器、③蒸気タービン、復水器、発電機、変圧器、④冷却塔、⑤還元井(3坑)
  • 発電方式 シングルフラッシュ方式(蒸気産出量:100t/h、蒸気温度160~180℃)
  • 固定価格買取り制度(FIT)価格:40円/kWh、買取り期間:15年
  • 見学後の疑問
  1. 日本の地熱発電所の一か所あたりの規模は小さい。この規模で日本の再生エネルギーの
    一助になるのか?
  2. 開発期間が長期にわたる。環境調査など必要ではあるが、長すぎる印象がある。短縮の
    可能性はあるのか?
  3. 民間企業の事業として、本当に採算がとれるのか? (国の補助で成り立っている?)
    これらについて環境部会の中西さんから以下の説明があった。
    1. 日本には地熱発電所が約30あるが、発電出力が約30MWの地熱発電所が6つ、約50MWの地熱発電所が2つ、110MWの地熱発電所(八丁原)が1つあるにすぎない。殆どの地熱発電所は30MW以下である。結果として、日本の地熱発電総出力は約510MWに留まっている。しかし、環境省の「再エネポテンシャル調査(平成22年3月)」によると、FIT 12円/kWh 以下で1130MW、16円/kWh 以下で1910MW、20円/kWh 以下で、2200MWの地熱発電が開発可能(採算がとれる)である。蒸気温度の低い地熱資源も高いFITの適用によって開発可能であり、FIT 36円/kWh以下で4200MWが開発可能である。従って、地熱発電は日本の再エネ電源の一翼を十分に担うことができる。
    2. 安比地熱発電所の場合、環境影響調査に約3年かかった。日本地熱協会のスタディでは「現状は環境アセス・保安林解除手続きに約3年かっているが、規制緩和によって約2年に短縮することが可能」としている。(「2030年地熱発電の導入量見込み」2021年3月)
    3. 安比地熱発電所の採算性について簡単な試算を試みた。
      15年間の売上高(固定価格買取り金額)=15MW×24(時間)× 365(日)× 15(年)× 0.8(設備利用率)×40円/kWh =630億円
      年間売り上高=630/15=42億円
      総建設コスト=200億円(八丁原地熱発電所の建設費から推定)
      年間操業費=3.3億円(3円/kWhとして推定)
      この試算が正しければ、投資回収期間は5年、年間操業費は年間売上高の8%程度なので採算性は十分にあると言える。

その後、活発な質疑応答が行われた。(Q:質問、A:回答、C:コメント)

Q発電出力が15MWの以下の場合FITは40円/kWhであるが、発電出力が15MW以上の場合はいくらか。
A(中西)30円/kWhである。
Q(石毛)我々が使う電気の料金は22、3円/kWh。電気料金が地熱発電買取り価格より安い状況で、地熱発電に採算性があると言えるのか。(注:「電気料金の国際比較~2019年までのアップデート」(電中研)によると、日本の家庭用電気料金:25円/kWh、産業用電気料金:17円/kWh)
A(中西)40円/kWhは我々が再エネ賦課金として負担するわけだから、安比地熱発電事業は一人立ちしていないと言える。しかし今後、地熱開発が活発になり開発事業者が増えてくれば、技術開発が進んで開発コストが下がり地熱発電の採算性は向上すると考えている。
太陽光発電のFITも最初は40円/kWhであったが、その後、大量導入により大幅に下がった。
C(石毛)固定価格買取り制度施行以前でも、大沼地熱発電所(6MW、1974年運転開始)が開発されている。電気料金より低いkWh当たりの開発費で開発できる地熱資源はある。
C(望月)事業者の立場から見ると、地熱発電は旨味のある儲かる事業ではない。地熱発電事業には採算性以外に、専門職人材の不足、温泉事業者など地元との調整が課題となっており、苦労が多い。送電線の費用が想定以上にかかったという話も聞いた。
C(石毛)系統連系の費用は高圧(6,600V)か、特別高圧(66,000V)かによって異なる。
因みに原発は50万Vである。電力の供給先と系統連系費用の検討は重要である。安比地熱発電所の近くに、大量の電力消費が想定される工業団地はあるのか。
(注:2024年7月、松尾八幡平地熱発電所および安比地熱発電所の電力を調達する、㈱はちまんたいジオパワーが設立され、2025年2月、市内の民間施設、学校、八幡平リゾート等への供給が開始された。)
Q(望月)国は再エネ発電に力をいれていると言っているが、地熱発電を増やそうと本当に考えているのか、疑問に思っている。
A(中西)第7次エネルギー基本計画の原案では、2040年度の地熱発電比率を1~2%と想定している。低めの計画でも今後15年で合計100万kWの地熱発電所の建設を目指している。12円以下のkWh当たりの開発費で1GWの地熱発電が可能とのスタディ結果から考えると、そのレベルまで進むのは容易なはずだ。
Q(横井)日本の地熱発電総出力は現在500MWで、原発1基の半分に留まっているが、地熱発電のポテンシャルは大きく電源として無視できない。三菱マテリアルは岩手県、秋田県で事業を行っており、安比地域の土地勘がある。三菱マテリアルはどうして安比地熱発電事業を始めたのか、電力を自ら使うつもりで始めたのかを知りたい。
A(望月)三菱マテリアルは古くからこの山域で銅などの鉱山を開発している。鉱山開発には多くの電力が必要なので、水力発電などの電力開発に積極的に取り組み、岩手県、秋田県とは良好な関係を築いてきた。地熱発電についても積極的に取り組んできた。
C(小林)鉱山開発には地質屋、土木屋、化学屋等幅広い職種が必要で、地熱開発に必要な人材も揃っている。脱炭素という社会の要請があり、地熱開発事業の収支が均衡するのであれば、三菱マテリアルとしては国の地熱開発に協力する立場にある。
C(山本)火山の国アイスランドに行ったことがある。アイスランドの電力の約3割は地熱発電である。レイキャビク(人口約15万人)の近郊に大規模な地熱発電所があり、発電に使われた熱水がパイプラインで運ばれ、温水、暖房用に使用されている。日本には発電以外に地熱を使う事例はないのか。
C(中西)八幡平スマートファームは、地熱発電所の使用済み熱水とIoTを活用してバジルを栽培している。

兒玉さん(MOVIMAS 代表取締役)の話は以下の通り。

  • 八幡平では元々、松川地熱発電所の熱水を活用して花卉栽培などが行われていたが、高齢化で離農者が増え「熱水ビニールハウス」は放棄されていた。
  • 2017年、八幡平市との間で包括連系協定を締結、2019年、農地法に定める農地所有適格法人(八幡平スマートファーム)を設立し、八幡平市と企業立地協定書を調印。放棄されていた50棟の熱水ハウスの内、12棟を再生。2020年6月、バジルを初出荷。
  • IoT技術や縦型の水耕栽培装置を活用して、ハウスの温度、湿度、肥料濃度、熱水の流量、空調制御を自動管理し、誰でもスマートな農業ができる体制を確立した。
  • バジルの年間生産量は20トン。地元や首都圏の市場に出荷している。
    CO2排出削減効果は約228 t-CO2/月、エネルギーコスト削減効果は約780万円/月
  • 八幡平市の人口はこの50年で半減した。就農人口の激減、若い世代の流出が課題となっている。八幡平スマートファームはIoT技術を活用して、耕作放棄地問題と農業振興に取り組んでいる。

その後、質疑応答が行われた。(Q:質問、A:回答、C:コメント)

C(四方)児玉さんはITコンサルタント会社の経営者であり、農業とは無縁であった。
偶々、八幡平市が地元の資源を利用した町おこしを計画していることを知り、市と連携してIoT技術を活用した八幡平スマートファームを設立し、成果をあげている。農業法人の立ち上げ、国や県との折衝など大変な苦労があった。児玉さんは起業家精神に富んだ素晴らしい人である。児玉さんは2017年にDFに入会し、「食と農業研究会」の会員として活動をされている。
Q(中西)八幡平スマートファームの「温泉バジル」の収益性はどうか。
A(児玉)温泉バジルは、IoT技術による栽培管理と省力化で高収益モデルを確立している。温泉バジルは注文の量が多く、出荷が追いついていない状況だ。バジルは一般的な農作物と比べてキロ当たりの単価は高いので収益性は高い。
Q 色々な野菜があるなかで、なぜ、バジルを選んだのか。
A(児玉)地熱発電所の熱水で熱帯原産のバジルを通年栽培するアイデアはあったが、バジルを選んだのは誰もやっていなかったからだ。トマト、キュウリなどは地元の方が作っていて、新しい技術を入れてもプロと勝負するのは厳しいと思った。実績がないから失敗の可能性もあったが、結果的には、バジルは競合者がなくマーケットは無限にあることが分かった。
C(山本)アイスランドでも地熱を使った温室で野菜や果物を栽培している。温室の中に高級料理を出す洒落たレストランがあって、野菜類や果物など全部、その温室で取れたものを使っている。50人、100人ぐらいが座れるぐらいの大きなレストランですごく流行っている。
八幡平でもバジルだけではなく他の野菜も栽培して、レストランをやれば観光のアトラクションになると思う。今後の事業のアイデアとしてぜひ児玉さんに頑張っていただきたい。
A(児玉)有難うございます。まだ再生していない熱水ハウスがあるので、拡大の際には検討したい。


以 上(中西聡)

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