日 時 | 2025年3月27日(木)15:00開始 |
場 所 | スタジオ751とZoom Hybrid |
講 師 | 岩佐俊明会員(1323) 畑中麻里氏 株式会社FFC社長 |
参加者 | リアル・Zoom参加者 合計26名 |
オーラルフレイルの重要性と対策
(岩佐俊明さん 1323)
岩佐俊明さん(1323)はまず、フレイルが要介護状態に至る前段階であり、適切な介入により健康な状態に戻れる可逆的な状態であることを説明。そのフレイルのさらに初期段階、前触れとして「オーラルフレイル」があると指摘した。

オーラルフレイルは、滑舌の悪化、むせ込み、食べこぼし、噛めない食品の増加、口の渇きといった症状で現れ、これらが進行すると全身のフレイルや低栄養、さらには誤嚥性肺炎などのリスクを高める。
岩佐俊明さん(1323)はオーラルフレイルのチェック項目(OF-5)を紹介し、2つ以上該当する場合は注意が必要であるとした。
予防・対策としては、①セルフチェックとセルフケア、②かかりつけ歯科医による定期的なプロフェッショナルケア(歯や歯周病のチェック・治療)、③口周りの筋肉トレーニング(クチトレ)、④唾液腺マッサージの4点を挙げた。
特に、嚥下(飲み込み)機能においては、顎の下にある「舌骨」とその周りの筋肉群(舌骨上筋群・下筋群)が極めて重要な役割を担っていると解説。これらの筋肉を鍛えることが、加齢による舌骨位置の低下を防ぎ、喉頭蓋の閉鎖を助け、誤嚥のリスクを低減させることに繋がると強調した。
クチトレの理論と実践
(畑中麻里氏 株式会社FFC)
畑中氏は、自身が開発に携わった口のトレーニングプログラム「クチトレ」について、その理論と実践効果について解説した。クチトレは、単なる口周りのエクササイズではなく、解剖学に基づき、顔面全体の筋肉(特に表情筋)にアプローチするものであるとした。

畑中氏が提唱する「口力(りょく)」とは、①口唇閉鎖力(口を閉じる力)、②舌筋力(舌を動かす力)、③唾液分泌力(唾液を出す力)の3つの要素から成り、これらが食事、会話、呼吸、睡眠、表情、免疫力といった生命維持に不可欠な6つの口腔機能を支えていると説明。
クチトレの基本は、専用器具を口腔前庭(唇と歯茎の間)に装着し、唇をしっかり閉じる運動(1回3分)と、オトガイ・口角結節・鼻中隔下制筋のマッサージである。専用器具によるトレーニングで得られる刺激は、直接母乳で授乳する際の赤ちゃんの口の動きに近く、口力の獲得、口腔機能の発達と関連が深いことを示唆した。
クチトレの実践により、短時間で体温上昇(血流改善)が見られ、脳機能イメージング(fNIRS、fMRI)では前頭前野や海馬を中心とした脳血流の活性化が確認された。この効果はトレーニング後も持続する傾向がある。
クチトレの多様な効果と事例紹介
畑中氏は、ディレクトフォース(DF)メンバーが半年間実践した結果を紹介。参加者の口唇閉鎖力の向上、左右差の改善、握力(全身の筋力の指標)の向上、自律神経バランスの改善が見られた。特に、参加者の姿勢が顕著に改善した事例(写真比較)を提示し、表情筋と体幹・姿勢の関連性を示した。
さらに、高齢者施設での事例として、
- 重度認知症患者のMMSEスコアが3ヶ月で平均3ポイント以上改善した例
- 15年間寝たきり・経管栄養だった方がクチトレ開始2ヶ月でお箸を使って食事できるようになった例
- 要介護度が改善した例(要介護3→2、要介護4→要支援1)
- 脳梗塞後遺症で重度の嚥下障害があった方が5ヶ月で寿司を食べられるようになった例
- 気管切開・経管栄養だった方が4ヶ月で経口摂取可能になった例
などが報告された。
また、クチトレの効果は高齢者や疾患を持つ方に留まらない。
- 保育園での実践では、食事に時間がかかっていた子供、寝つきが悪かった子供たちの改善が見られた。
- 口呼吸や舌小帯短縮症による問題を抱える子供たちに対しても、クチトレが口腔形態(歯並び、口蓋の形状)や機能(舌の動き、鼻呼吸)の改善を促すことを示した。
- 発達障害やダウン症を持つ子供たちにおいても、筋力向上、口腔機能改善、認知機能や適応行動の改善に繋がる可能性が示された。
まとめ
本セミナーでは、オーラルフレイルが全身の健康に及ぼす影響の大きさと、その予防・改善における「クチトレ」の有効性が、理論と豊富な実践事例に基づいて示された。
クチトレは、年齢や健康状態に関わらず、口腔機能の維持・向上、ひいてはQOL(生活の質)の向上に貢献しうるトレーニングであり、継続的な実践が重要であると締めくくられた。質疑応答では、器具の入手方法や、継続を支援するためのグループ活動(DFでの実践例)についても触れられた。
参加者の感想
3月27日のセミナーは参加者の満足度が非常に高く、全員が「参考になった」と回答。「口トレ」の重要性、効果、全身への影響が特に評価された。参加者の8割以上が内容を他者に伝えたく、続編も希望している。改善点には、オンライン配信技術、休憩、器具なしでの口トレ紹介、具体例追加などがあった。資料や説明の分かりやすさは好評だった。
以上(森川紀一)