2025年4月
ディレクトフォース(DF)は、超高齢社会時代に対応する新社会システムづくりを東大高齢社会問題総合研究機構(IOG)と連携を進めていますが、3月28日の合同会合で東大側プロジェクトリーダーの辻哲夫さんから、DFにとって興味深い問題提起がありました。
辻さんは、今後の企業課題として、地域社会貢献につながる新たなビジネスモデルづくりを考えることが重要になってくる、と述べ、その中で「企業は収益をあげることが企業の目的であるのは確か。しかし企業は地域社会に目線を置き、そのためのプラットフォームづくり、ビジネスモデルづくりを考えることが必要」と述べました。DFメンバーが出身企業に働きかけ、企業と地域社会を結びつける役割を担えばいいのでないか、との提案です。
辻さんによれば、企業幹部OBでつくるDFメンバーの問題意識、活動には活力がある。
日本国内でもDFのようなアクティブシニアの組織はないように思う。そこで、DF独自の取組みでフレイル(加齢による心身活力の低下、要介護リスク)予防や健康生きがい、そしてつながりのあるまちづくりに関して、企業と全国各地域をつなぐ何らかの取り組みをぜひ進めていただきたい、というもので、気持ちの高ぶりをおぼえるメッセージです。
DF会員にフレイルで懸念がある人は意外に多い
これを受けてDF側の江村泰一さんから、DFが会員向けに行ったフレイル予防など心身の健康に関する調査の中間報告を行うと同時に、今後は東大IOGと連携、データの分析作業を進めていく計画との報告がありました。
DF会員を対象にした「心身の健康に関する調査中間報告」の詳細は、別途報告されるでしょうから、ここでは江村さんが挙げたポイント部分だけを紹介します。
DF会員576人のうち、アンケートに応じたのは3月21日時点で121人でした。会員のフレイルに対する関心は高いものの、問題は、フレイル懸念が意外に多く、かつ高齢層だけでなく65歳未満でも相当数にフレイル懸念が見られ、分析が必要だ、と調査に加わった江村さんは述べています。ただ、1日平均5000歩以上の散歩など定期的に運動しており、歩行などに悩みや問題はない、と答える人が多かったのは救いのようです。
「物忘れ」「滑舌が悪くなった」「むせる」などが気になる
一方、アンケート結果で、日ごろ気にしている点としては「物忘れ」「滑舌が悪くなった」「むせる、食べこぼす」などが目立っていました。また、地域とのコミュニケーションや活動に関しては「行っていない」が多く、その理由は「知り合いがおらず参加しにくい」「機会がない」「興味がない」などが気になる点でした。
DF会員の関心事の就労問題に関しては、働くにあたっての条件は「収入」よりも「適性」「働き甲斐・やりがい」を重視する人が多く、生きがい就労がメインのようです。
超高齢社会課題は「コミュニティの活発化」「地域交通の充実」
また、ウエルビーイングに関係する質問では「現在、幸福感を感じている」が大多数で、その理由としては複数回答で「健康状態」「家庭・家族状況」「経済状態」「趣味」がそれに次いでいます。このほか「今後の人生の目標設定」については「具体的ではないが、ある程度行っている」が多く、また「老いを受け入れ思いやりや感謝の心を忘れずに過ごしているか」に対し「はい」が大多数でした。
全般の問題として「超高齢社会の課題は何だと思いますか」という問いに対し、複数回答で「コミュニティの活発化」「高齢者施設の充実」「地域交通の充実」「周囲の人たちの高齢者への配慮」の順となっています。
ニッセイ基礎研前田さんと「85歳以上1000万人時代」で議論
今回の合同会合で、DFは、ニッセイ基礎研究所上席研究員、東大IOG客員研究員の前田展弘さんを講師に招き、日本の「超高齢未来の課題と新たな取組み視点」というテーマで問題提起をしていただいたことを報告しました。
DFメンバーにとって興味深かったのは、2036年ごろに「85歳以上1000万人時代」が到来するため、それに見合った社会システム設計が課題になること、当然、介護や認知症を抱える高齢者が増えるため、社会の支え方が重要という前田さんの指摘でした。
その場合、地域の支えあいの仕組み、端的には地域包括ケアシステムの充実に加えて、民間企業が、社会課題の解決に参加、協力することが必要となります。前田さんは、民間による「生活支援コーディネーター(仮称)」制度の枠組みをつくり、孤老の人などをサポートする制度設計を提案しましたが、東大IOGの辻さんも合同会合で賛成だ、と述べました。
高齢者消費市場の創り直しがテーマ、商品サービス開発も重要
高齢者人口が多くなれば、それに見合って高齢者消費にとどまらず、高齢者ニーズに対応した市場づくりが必要になってくるため、市場の創り直しが重要課題になります。今回の合同会合で、前田さんが高齢者消費市場の再構築を提案していること、企業としてもこの市場をターゲットにサービスや商品開発を進めるのは重要と述べていることを報告しました。
評論家の大前研一さんも課題山積の超高齢社会市場をネガティブに捉えず、シニア向け市場をビジネスの場として位置づけることが重要と指摘、具体的には就業支援、住宅リフォーム、フィットネス、家事支援、リハビリ、終活などエンディングといった形で「シニアエコノミー」ビジネスの創出やシニア消費市場の掘り起こし、商品サービス開発が必要と提案していることはポイント部分なので、合同会合で問題提起を紹介しました。
所沢市民大学は市民主導で場づくり、神奈川でも人生100歳ネット
DF健康医療研究会代表の江村泰一さんから、東大IOG辻さんが問題提起の新たな地域社会づくりに関連して、所沢市民大学という所沢市と市民の協働で進めるプロジェクトの報告がありました。シニアなどの出会い・交流の場、学習の場になっていて、企画づくりも市民主導で行われており、成功事例と言える、と述べています。
また、神奈川県が主催する「かながわ人生100歳ネットワーク」というプラットフォームでは神奈川県内の自治体、企業、大学、NPOが連携し人生100歳時代に必要なさまざまな社会のイノベーションを協働で取組むことをめざし活動している、という話です。
これに関連して、DF観光立国研究会代表の市古紘一さんは長年交流を続けている山梨県北杜市では市内の48か所に「高齢者の通いの場」をつくって交流の場づくりを実践していること、同じく「はつらつシルバーのつどい」の場も設けていること、「人生100年時代のマネジメント講座」を開設し高齢者向け学びの場にしていることを紹介しました。
定年後「空洞化問題」解決でDF越後屋さんは定年廃止を提起
今回の合同会合で、DF側メンバーの関心事として、65歳まで勤め上げて定年退職したシニアの人たちがまだ働きたくても働く場所がなくて困る「定年後の空洞化問題」だということを報告すると同時に、メンバーの越後屋秀博さんから「75歳以上の後期高齢者であっても、心身ともに元気なうちはまだ働きたい、という方が多い。そういう人は知見、知識が豊富なので、状況によっては賃金も、能力に見合ったものにしていい。私は、そのためにも定年廃止を早急に実現すべきだと思う」と問題提起があったことを報告しました。
DFメンバーの中から「米国では AGE FREE という形で、年齢にかかわりなく働ける社会をめざす考えがある。現に、雇用における年齢差別を法律で禁じており、日本が遅れていることが問題だ」との指摘があったことも報告しました。日本では年金支給開始年齢の引き上げとからめて、高齢者雇用安定法で、企業に対し65歳までの雇用確保義務、70歳までの就業確保努力義務を打ち出していますが、現実は、企業の現場判断に委ねられ、米国の AGE FREE の考え方とは対照的な状況です。
DFがシニア市場でコンサル事業を、との前田さん提案は興味深い
東大IOGとの合同会合で、DF側メンバーの間で、前田さんが、アクティブシニアの多いDFの果たすべきミッションに関して、いくつか問題提起や提案された点が強い興味や関心をもたらした、と報告しました。
1つは、DF主導で定年前の50~60代の層を対象に「定年予備校」(仮称)をつくり、定年後の活躍をサポートする事業構築ができないか、という点。実は、この案はDF企業ガバナンス部会長の平井隆一さんが同じ問題意識でプロジェクト展開しつつあります。
2つめは、地域で福祉や子育てなどにとどまらず地域で必要とされる「地域人財」を洗い出し、その現場に入って体験することでやりがい発見につながるのでないか、という点。
3つめは、DFが新たなシニア市場に特化したコンサルティングを主催し、リード役を果たすことが出来れば素晴らしい。80代、90代の高齢者が楽しめる商品サービスの市場が少なく検討価値がある、との問題提起。4つめは、DFが社会貢献する視点として、世の中に見受けられる「当たり前(の変化)」を見直す提言を行うこと、端的には高齢者に優しいエイジフレンドリーな社会にしていくため、知見、問題意識が旺盛なDFメンバーがいい意味での「世直し活動」も重要になる、というのが前田さんの提案だと報告しました。
最後にぜひ、報告しておく必要があるのは、今回の東大IOGとの合同会合に初参加したDF代表理事の織田文雄さん、前代表理事の段谷芳彦さんの挨拶です。織田さんは「東大IOGとは向かっている方向が同じであることを実感し心強く思った」と。また、段谷さんも「地域デザイン本部を中心に、地域のさまざまな課題解決に向けてDFは取り組んでいく予定でおり、ぜひ東大IOGからもアドバイスを得たい」と述べました。
以 上(DF超高齢社会問題研究会代表 牧野義司)