日時 | 2025 年4月4日(金)15:00~17:00 |
演題 | 水にまつわる世界と日本の話題 |
講師 | 吉村 和就 氏 (グローバルウォーター・ジャパン代表) |
会場 | DF スタジオ 751 + Zoom |
人数 | 70名(資料配布) |
講師のグローバルウォーター・ジャパン代表 吉村 和就氏は 大手エンジニアリング会社にて営業、開発、市場調査、経営企画等で水ビジネスに携わって以降、国の要請により国連ニューヨーク本部にて環境審議官として発展途上国の水インフラ指導を行い、その間国内外にて多くの講演、寄稿、マスコミ出演を通じ水問題を判りやすく解説、最近は若手 の教育に情熱を注いでいます。
1.地球温暖化と水資源
地球上の水資源量の総量は14億㎞³であるが、うち淡水は2.5%、人が生活に使える可能性のある水0.8%、さらに地表面にあって安全に直ぐ飲める水は 0.01%とごく僅かである。国連では近代的な生活を営む上で 1 人の人間が必要とする水の量を年間 1,700tとしているが、地球温暖化により水資源の地域的な偏在が激しくなり、干ばつや洪水、山火事を引き起こし、近い将来地球人口80億人の約半分がこの必要量を下回る水ストレスに直面するとの予測が出ており、水資源を巡る国家間の紛争激化も懸念されている。
2.近年の各国水事
(1)台湾
台湾の水資源の8割は台風が運んで来ており、2020年は台風の上陸・接近が無かったため翌年は水不足で半導体が減産となり国家収入に大打撃となった。現在では水資源の確保が国家の命題との認識の元、全国16の下水処理場で逆浸透膜による純水の製造を行っており、TSMCをはじめとする半導体工場に水の供給を行っている。
(2)サウジアラビア
砂漠の国サウジアラビアの水資源の82%は砂漠の下の化石水であり、これに頼りすぎると枯渇の危険性があるため、農業の拡大計画もある中、今後は現在9%を供給している海水淡水化の増強が急務。海水の淡水化は1tの飲料水を作るために4kWの電力を要しメンテナンスコスト、オペレーションコストとも高額になるため、途上国での導入には限界がある。
(3)米国
米国では世界の水資源を把握することは国家の安全保障との認識の元、世界的な水のモニタリング研究施設を設立している。現在の戦争はドローンによる戦闘が主流となっており、ドローンの運航に必要不可欠の風向・風速や雨水をはじめとする気象条件のモニターが戦いの死命を制するとして、国家予算を投入してアラバマ大学に水研究センターを設立している。
3.新しい世界的水ビジネス
(1)データセンターの水冷化
通信量が急拡大する情報化社会では今後生成AIの利用拡大に伴いデータセンターの増設が予定されており、これに伴い電力と水の消費量が飛躍的に増加することが予想されている。データセンター向けの冷却市場は2030年まで年率12.8%の伸びが見込まれ、2030年には 4.4兆円市場になると予想されている。 日本国内でも米国のメガテック(アマゾン、グーグルなど)企業などが 4兆円を投資し建設を進めている。
(2)PFASの処理・分解
体内では分解されず発がん性が疑われるPFAS(有機フッ素化合物)の飲料水からの除去、分解ビジネスの世界市場規模は現在約100億ドル、2036 年には約200億ドルの市場になると予測されている。日本でも暫定目標値(50ng/L)が法的拘束力のある水道水基準に引き上げが予定されている。
4.日本の上下水道事業の現状と解決策
日本の水道は世界でも有数の品質を誇り、水道普及率98%、漏水率7%以下、料金徴収率99.9%と突出した実績を上げている。その運営は各種地方自治体による全国1,381の水道事業体で実施されており、利用料金は水源からの近さ、水質、人口密度によって各々個別に決められており、その料金格差は全国レベルで約8倍となっている。
しかし一方で、今後は人口減少と施設の老朽化に起因する各種問題を抱えている。少子高齢化によって日本の人口は加速度的に減少してきているが、これによって料金収入は10年間で2000億円減少し、施設平均稼働率は60%低下、運営に携わる職員は 40%以上減少している。また戦後の社会インフラは昭和30年代に集中的に構築されたがその多くは耐用年数(水道管40年、下水道管50年)を過ぎ、老朽化の波に直面し埼玉県八潮市の道路陥没事故をはじめ近年多くの事故、水災害が起きている。老朽化した水道配管の交換には 1km 当たり1億円の費用が必要と言われており、今後水インフラだけでも全国で莫大なコストが必要となる。
これらの課題解決には1水道事業者のみで対応出来るものではないため、新たな広域化や官民連携等を活用して水道事業の再構築を行うことが議論されている。広域化は現在行政区域内に各自治体がバラバラに給水事業を行うのではなく、大きな河川の周辺の自治体が上流から下流まで一体となる流域管理や、県ごとの 1 県 1 水道構想など宮城県をはじめ複数の県で検討が進められている。ただ水道料金は人口密度の高い地域ほど事業効率が高いため料金が安く、周辺の料金が高い地域との統合に否定的で市議会などで否決されケースが出ている。官民連携は、PFIやPPP等の手法を使い地方公共団体が所有権を保持する原則は維持しながら、民間企業に運営権を売却する仕組みで、民間の資金、ノウハウを導入することで費用の削減、運営の効率化を目指すものである。しかしながら一方で民間企業の利益追求による料金の値上げ、安全・サービスの低下、ノウハウの断絶等の懸念も指摘されている。
行政面では昨年4月より従来9つの省庁で分担していた水行政が、特にダム、河川、上下水道、港湾等の水に関する全ての分野を国土交通省に統合したことによって、社会インフラ全般の整備が一体化して効率的に強化されることが期待されている。
質疑応答
(セミナー当日時間の関係で回答いただけなかった分も含め吉村さんから後日頂いた全ての回答をそのまま記載しております)
Q1 | 地球上で 0.8%しか使える水がない上に、地球温暖化による渇水化等で環境が厳しくなる中、データーセンターの増設等で益々需要が高まる先進諸国において、人間が使える水を抜本的に増やす解決策は何が考えられるのでしょうか? |
A1 | 節水と水のリサイクル促進、水資源の平準化(貯める)が重要である。国連FAO調査では、日本の年間降水量は約1700mmで世界平均の2倍であるが、人口が多いので、国民一人当たりの水資 源賦存量は世界平均の1/3である。 |
Q2 | 水は絶対量が地球で14億立方kLとのことですが、それが水だったり氷だったり水蒸気だったりということで形を変えていると理解しました。世界的にみると環境変化の影響か、干ばつと洪水が極端に偏在してきているように思います。特に干ばつは人口増加地域に多いような印象ですが、このままでいくと人間が生活できない地域がどんどん増えてくるものと思います。併せて動物も植物も。国連の水会議ではその問題解決にどのような手を打とうとしているのか、またその実効性はどうなのか教えてください。 |
A2 | 国連は地球温暖化対策として、気候変動枠組み条約(1994 年)やパリ協定(2016 年)などで加盟国に温暖化対策を求めているが、対策への取り組み方は国ごとにバラバラであり実効性が上がっていない。熱心な国 フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツな ど 無視:ロシア、ニュージーランド、サウジ、アメリカ COP26 (英国グラスゴー)60カ国の通信簿では日本は45位、詳しい評価はCCPIウエブでご覧ください。 |
Q3 | サウジアラビアでは海水淡水化は全給水量の9%とのことですが、拡大できない理由は何 でしょうか。コスト、技術、管理運営のマンパワー? 何でしょうか。 人間がすぐに使 える可能性がある水を増やすには海水を淡水化することではないかと思っていましたが、 海水淡水化はハードルが高いようですね。 |
A3 | コスト(建設費と維持管理費が高い)海水から飲料水を1m3造水するためには、電力4kWh/m3必要です、100万m3の造水では 400万kWの発電所が必要(原発 4 基分)薬剤コスト、膜交換コスト、メンテコスト建設費100から200億円(1万m3/d) 沖縄海水淡水化センター事業費347億円 4万m3/d、 造水コストは170円/m3 動かすと月 2 億円コスト増となる。 |
Q4 | 2016 年 9 月 9 日に環境部会で東京都下水道局を見学しました。広大な敷地で、貯水槽も大きなスペースで電力使用量が多いと聞きました。ただ小水力発電もしており(80万kW)、CO2 排出量削減に寄与していると聞きました。貯水槽の上に太陽光発電が出来れば、更に排出量削減になり、上下水道利用の CO2排出係数も減るのではと思いました。 現在の各自治体の浄化槽上部の太陽光発電設置状況が分かれば、教えてください。 |
A4 | 水の輸送は重さとの戦い 水道水1m3送水で0.8kW、下水が0.7kW 合計で1.5kW必要、東京都水道局では年間約8億kWhの電力量使用、都内電力需要の1%に相当電気代200億円掛かっている。送る配るで電気代の6割使用、葛西水再生センターでは、再生可能エネルギー割合は5%、維持管理コスト低減にはあまり貢献しないが、再生可能エネルギーを使用しているPR効果が主体、防臭効果もあり。 |
Q5 | 水道事業の設備老朽化対策は大きな課題と認識できました。同様の課題は電気事業でもあり、高度経済成長期に建設した多数の送電線路の維持管理と建替更新に苦労しています。 最も苦労するのは、更新の際の工事会社のマンパワーが全国的に不足する点です。水道事業ではマンパワー不足がどの程度の深刻度合いなのか、また、どのような対策がありうるのかお聞かせください。 |
A5 | 公共インフラの老朽化(橋、道路、トンネル、水道、下水道)建設後50年を超えた老朽化対策、ヒト、モノ、カネなし3重苦。 水道、下水道料金の値上げは議会の承認事項(議員の 選挙に直結)で値上げは難しい。上下水道の年間維持費だけで6兆円かかる。 |
Q6 | 埼玉県八潮市の道路陥没事故のようなことが起きないようにする対策は急務だと思います。全国の老朽化した下水道管の修復には相当な時間、エネルギー、経費が必要のように 見えます。下水道行政もウォーターPPPの推進が急がれると思いますが、計画は着実に進んでいるのでしょうか。 |
A6 | 下水道管の総延長は約 49万km(地球12周以上)耐用年数50年を超えた約 3 万km(全体の7%)20 年後は約20万kmになる。現在でも下水道管の破損による陥没事故年間2600件、陥没50cm以下が86%、100cmを超える陥没全体の2%(52件) 当然、延命化作戦 パイプインパイプ、SPR工法などが行われているが、予算不足で進んでいない。 |
Q7 | フランスでは上水道管理事業をヴェオリア社に委託していると聞いておりますが、 その評価(うまくいっているかどうか)をお聞きしたい。 |
A7 | フランスでは160年以上水道は民間で経営、水メジャー(スエズ、ヴェオリア社)として中南米やアジアで値上げ等大きな問題を残し、表面的には撤退、しかし維持管理部門(日銭が入る)をしっかり押さえている。みやぎ方式官民連携事業において宮城県との契約代表企業は日本のメタウォーター社であるが、ヴェオリア社はみやぎ方式の 維持管理会社の51%の株主である。維持管理会社には宮城県の査察権は及ばない。 |
Q8 | 日本の社会インフラの再整備は大きな問題と思うが、社会インフラと言われる「電気、ガス、水(上下水、河川、地下水など)、道路、鉄道、通信網等」の中で、水は再整備が遅れているのか? 官民協力という視点で、水のイノベーションを提供する民間が弱いようにも見えるが誤解か? |
A8 | 水道・下水道は儲からない、議会で料金、使用料が決められる。PFI/PPPがあるが人口30万人以上でないと採算取れない。他の産業に比べ公共向け水ビジネスは魅力がない。 |
Q9 | 社会インフラ全体の再整備で、GDPの相当%を使い続けないと、生活・社会活動が成り立 たない時がすでに来ていると思う。インフラの体力も足りないが、無駄遣いも相当している、しかしそれでも、感覚として GDPの少なくても15~20%くらいを長期に使わないとだめなように思う。 |
A9 | 主張の通りと思う、石破総理は先月の参議院本会議で、国土強靭化予算、5年間で、最初は15兆円規模、ミャンマー大地震の後、2日前は20兆円と水増し、ただし2026年度から。 |
Q10 | いずれ、「日本全国大移住」の様な事をして、物理的な生活空間と社会活動空間を変えないと、社会インフラの有効性を維持して効率性を上げる事ができないのでは? |
A10 | 駅前にコンパクトシティ計画、だれも移りたがらない失敗作、これからは個別分散上下水道(小型浄水器、合併浄化槽)モニタリングと制御に5Gネットワークで構築すべき。 |
Q11 | 米国には国立水研究センターがあるとのことですが、日本の水資源対策はどこがセンターなのでしょうか。そして、水量の確保、水質の維持、DC向けのリサイクル、PFAS類対 策などの研究は進んでいるのでしょうか。また、十分な予算は確保されているのでしょうか。日本ではどこでも蛇口から出る水は飲めるのに、飲料水や炊飯用など口に入る水は、フィルターを通したり、別にミネラルウォーターを購入したりしないと気が済まない人が 多いのではないかと思ったりします。 |
A11 | 日本の水政策はバラバラ、水道は厚労省 -> 昨年国交省へ(ダム、河川、下水道、港湾) 工業用水は経済産業省、農業用水は農水省、浄化槽は環境省、縦割り弊害を解消するために内閣官房に水循環政策本部が設置されたが、 しかし国交省河川局が主体で各省から寄せ集めで機能していない。 |
Q12 | 家庭での対策について、とくに飲料水について、従来の水質基準に加えて PFAS類の除 去やマイクロプラスチック混入が気になります。選択の基準や注意事項を教えてください。 質的かつコスト的に最善の自己防衛は「水道水&浄水器の利用」と私は思うのですが、いかがでしょうか? |
A12 | 配管の老朽化によるサビこぶの除去できる浄水器が望ましい。PFAS規制値は体重50kgの成人が一生涯毎日2L飲んでも健康に影響がない数値 50ng/Lと暫定目標値が設定されている。 |
Q13 | 水源の所有者について、水源地を個人や企業、とくに外国籍の人・法人が所有すること の是非などがニュースになりますが、実態および真の問題は何でしょうか? |
A13 | 2010年代に外国人による山林(水源地)買収が話題になり、水源地条例が出たが、効果なし、民法207条でだれでも山林を買えることになっている。重要土地規制法(令和3年)自衛隊基地周辺、原発、離島などが指定されたが、水源地は指定なし 。 |
Q14 | 産業排水の reclaim をして販売している事業をタイで経営していますが、世界主要国での水道水の販売価格一覧が有れば教えていただきたいです。 |
A14 | 水道技術研究センターのウエブにあり(水道料金MAP)。 |
Q15 | 問題解決にはどんな体制が必要で、それにかかるリソースはどのくらいなのですか? |
A15 | 水道33兆円以上で水道料金3倍に。下水道は今後30年間で176-194兆円と推計されている。今後 使用料2倍に、他は国費投入。 |
以 上(石坂直人)