「トルコからの翼」
40周年を顕彰し トルコに感謝を捧げる献花式の実施報告
越純一郎(1350)

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2025年6月15日(No. 439)
 越 純一郎

こう語るのは、本年3月に台湾行政院政務顧問に就任した岩崎茂元統合幕僚長である。彼は外交安全保障の専門家として、「トルコは、日本から恩義をうけた1890年のエルトゥールル号事件を忘れず、日本への感謝を学校教育で教え続けている。だが、それに対し、日本がトルコから恩義をうけた1985年のトルコ航空機によるテヘラン在留邦人救出を大半の日本人が忘れ、次世代に語り継いでいない」ことを、「大変恥ずかしい事です」と述べている(小生宛Email)。

日本では「受けた恩は石に刻め」というが、ロケット弾が飛来するテヘランにとり残された数百人の日本人を、危険を冒してまで救ってくれたトルコへの恩を忘れるようでは、日本人が恩知らずの民族になってしまう。
そこで小生は3年前に自分一人でもできる顕彰事業として、救出40周年の2025年3月19日に、イスタンブールの姉妹都市である下関市の「オルハン・スヨルジュ記念園」で献花式を行うことを考えた。オルハン・スヨルジュとは、この救出を遂行した機長のお名前である。

昨年末までは「たった一人の献花式」のはずだったが、次第に支援者が増え、駐日トルコ大使館が後援する公式行事となった。詳しい事情は、この献花式における主催団体会長の宮島昭夫氏(元駐トルコ大使)による次のスピーチで分かる。

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イラン・イラク戦争中の1985年3月、イラクのサダム・フセインが、「48時間後以降、イランを飛行する民間機も攻撃する」と突然、宣言しました。
しかし、タイムリミットまでに日本から救援機を送ることは不可能でした。取り残され、絶望的な状況のなかで、ホテルに身をよせていた日本人に、「トルコ航空が助けにきてくれる」との、信じられない情報が飛び込んできました。
空襲警報が鳴り止まないテヘランの空港に、2機のトルコ航空機が飛来し、日本人216人を乗せて、3月19日午後6時、トルコに向け、離陸しました。やがてトルコ領に入り、恐怖と重い緊張で静まり返っていた機内に、機長の「トルコにようこそ!」というアナウンスが流れると、歓喜の叫びが沸き起こりました。
その機長こそ、本日、この献花式を行う記念園の名称に冠された、オルハン・スヨルジュさんでありました。機長、乗務員などトルコ航空の皆様は、プロフェッショナルであり、かつ人道的で英雄的でした。
40年前の救出劇は、大変厳しい国際情勢の中で日本人を助けるために救援機を派遣するというオザール首相の大英断の賜物でしたが、その背後には、日本と日本人を特別に大切に考えてくださるトルコ国民がいらっしゃったことを、私たちは、良く知っています。
ですから、オルハン・スヨルジュ機長の記念碑に捧げる私たちの感謝と顕彰は、トルコの全国民の皆様に向けられたものであります。
一昨日、40年前にトルコ航空機に救出された日本人のお二人からお話を聞きました。今でも本当に感謝している、ご恩は一生忘れないと言われていました。

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この献花式を、NHKとトルコ国営通信は即日報道し、毎日新聞、山口放送も続いた。駐日トルコ大使館からは公式の謝意表明があった。
この献花式の最大の意義は、「日本で公式の顕彰行事が行われたこと」をトルコ国民に伝えられたことだ。日本人が恩知らずではないことを示したいとの思いは一定の形になった。
だが日本では今も、テヘラン事件を知る人、語る人は多くない。日本側における啓蒙は今後も重大な課題である。

ところで、1985年のテヘラン邦人救出が実現した本当の背景は、伊藤忠商事のイスタンブール支店長であった森永堯氏が、その盟友・親友であるオザル首相に要請したことであった。オザル首相は産業界出身で、森永氏とは固い絆があったのだ。つまり、日本企業の国際的活動こそがテヘラン救出劇の根本であり、森永堯氏のお名前は歴史に刻まれねばならない。実は、小生がどうしてもこの献花式を行いたかった大きな理由は、森永氏の顕彰であった。

なお、本献花式の記録誌や写真集に代えて、ウェブ上に記録サイト「トルコからの翼 40周年記念献花式報告」が設けられた。(なお、関連資料を入手されたい方は、koshi@seon-inc.comまでメールを送信頂ければ、電子ファイルでお送りいたします。)

参考文献:
森永堯「トルコ 世界一の親日国」明成社
仁坂吉伸和歌山県知事「外国の日本人」和歌山県広報誌「ようこそ知事室へ」平成26年1月
越純一郎「連載日本人が知るべき親日の歴史 第4回 トルコ」日本安全保障・危機管理学会


こしじゅんいちろう(1350)
(元 日本興業銀行 テイク・グッド・ケア)

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