環境コラム第9号 鍵和田圭二(NPOブルーアース会員)
「クマ出没が映す生態系の乱れと教訓」

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クマが出た!全国各地でクマの出没が相次いでいる。
丹沢・大山の起点である伊勢原市の大山ケーブル駅付近でクマが出没した。8月17日ケーブル駅職員がクマを目撃し、阿夫利神社参拝や大山登山など多くの観光客が一時足止めされた。8月27日にはセンサーカメラがツキノワグマを捉え、例大祭の行列も中断された。
伊勢原市はクマの捕獲も検討しており、登山客には鈴やラジオを持つなど、存在を知らせることで身を守る行動を呼びかけている。

また、これまで制限されていたが被害防止のため、一定の条件を満たせば自治体の判断で市街地でも猟銃を使える制度の運用が9月1日から始まった(環境省緊急銃猟制度)。
8月の知床・羅臼岳では登山者がヒグマに襲われ、命を落とす痛ましい事故が起きた。この問題は偶発的な出来事ではない。北海道開拓の歴史における人間と自然の関わりが深く影を落としている。

北海道のヒグマは、古くから人々に恐れと教訓を与えてきた。1915年の三毛別羆事件では7人が犠牲となり、その惨劇はいまも語り継がれる。その後、春グマ駆除などの政策で個体数は大きく減少したが1990年世界的な自然保護思想の高まりを受け、駆除から保護へと方針が転換された。推定生息数は1990年の約5千頭から現在は1万頭を超え、約35年で2倍以上に増加した。その一方で、人間社会は拡大し続け、ヒグマの生息域は狭まり、遭遇リスクは確実に高まっている。

更に、北海道の生態系・食物連鎖の乱れも無視できない。かつてエゾシカの天敵だったエゾオオカミは、害獣として駆除され20世紀初頭に絶滅した。その結果、エゾシカは爆発的に増加し、森林破壊や農林業被害が深刻化。生態系のバランスが崩れ、ヒグマの行動にも間接的に影響を及ぼし、人と野生動物の摩擦は避けがたいものとなった。

ヒグマは単なる脅威ではない。アイヌ民族にとっては恵みをもたらすキムンカムイ「山の神」である。私たちは、自ら生態系を壊してきた歴史を直視し、自然との共存の道を模索する必要がある。
自然の営みと人の暮らしは、長い歴史の中で常に影響し合ってきた。過去の歩みを学び、現在の課題に向き合うことが、より良い未来を築く力となる。豊かな自然と安全な社会を共に守り続ける責任が、いまを生きる私たちに託されている。クマ出没の問題は、人と自然の共存をどう実現するかという問いを投げかけている。

ヒグマは単なる脅威ではない。アイヌ民族にとっては恵みをもたらすキムンカムイ「山の神」である。私たちは、自ら生態系を壊してきた歴史を直視し、自然との共存の道を模索する必要がある。
自然の営みと人の暮らしは、長い歴史の中で常に影響し合ってきた。過去の歩みを学び、現在の課題に向き合うことが、より良い未来を築く力となる。豊かな自然と安全な社会を共に守り続ける責任が、いまを生きる私たちに託されている。クマ出没の問題は、人と自然の共存をどう実現するかという問いを投げかけている。

以 上(鍵和田圭二)

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