| 日時 | 9月8日(月)15:00~17:00 |
| 演題 | 「広い世界から深い宇宙へ ~満足して最期を迎えるための処方箋~」 ディレクトフォースの「次」を考える |
| 講師 | 牧野 篤会員(1535) 大正大学地域創生学部教授 東京大学名誉教授 |
| 会場 | 航空会館 + Zoom |
| 参加 | 49名(会場 34名 + オンライン 15名) |
はじめに
2025年9月8日、「第11回地域デザイン勉強会」が開催されました。講師は牧野篤先生。ご専門は中国近代教育思想、並びに社会教育・生涯学習ですが、それに加えて、日本のまちづくりや高齢化・過疎化問題、多世代交流型コミュニケーションの構築などにも取り組まれてきております。DFとの関わりは2022年から理事を務め、今年9月には地域デザイン本部長に就任。今回は、その新たな立場での初めての講演となりました。
講演テーマと問題提起
テーマは「広い世界から深い宇宙へ ~満足して最期を迎えるための処方箋~」
牧野先生は、少子高齢化と人口減少が進む日本社会において、「大量生産・大量消費」の社会システムや、課題解決型の思考から、「次世代にどう持続可能な社会をつなぐか」という発想への転換が不可欠であると指摘しました。DF会員に向けては、100年時代におけるサクセスフル・エイジングを超え、「人生最終章をどう過ごすか」という問いの重要性を説かれました。
Well-Beingと「かかわり」
さらに、ウェルビーイングを「生きがいとつながりの調和」と捉え、世代を超えた「かかわり」が、人と社会の活力を生み出すと解説。DF会員が、広い視野と深い洞察をもって社会の羅針盤となることへの期待が示されました。高齢者調査や人口問題に関するデータも多く紹介され、会場は、笑いと真剣味が入り混じる雰囲気となりました。

ヒアリング調査から見えたDF会員の特徴
会場の関心を引いたのは、2023年に実施した会員47名を対象としたヒアリング調査(75~79歳:23人、80~84歳:18人、85~89歳:6人)。そこからDFの独自性が明らかになったと解説されたことでした。先生が注目されたのは、DFの駆動力は「社会貢献の使命感」ではなく「自己実現の愉しさ」にあるという点です。自己の満足と社会貢献が相互に結びつき、マズローの欲求段階を超えるユニークな在り方であり、これこそがDFの魅力だと言及されました。
一方で、この強みは「地域性を超えた都市型の集団」という特質ゆえに、会員の高齢化とともに活動基盤の脆弱性につながる可能性もある。企業に定年があるように、DFの活動からもやがて引退を余儀なくされる時期が訪れるという現実を見据える必要があると指摘されました。
次世代の「ふるさと」をつくる~恩送りの実践~
こうした課題を踏まえ、先生は、「広い世界で活躍した後に、地域でどう幸せに生きるか」という方向性を提示しました。

- ふるさとに還る:出身地やゆかりの地で地域に貢献する
- ふるさとをつくる:新たな地域社会で活動し、次世代を育む
- 自らがふるさととなる:次世代にとっての「受けとめてくれる存在」となる
さらに、Generativity(次世代にかかわりたくなる自然な傾向性)、Transcendence(老年的超越):目先の利害を離れて深い宇宙へとつながる感覚)の感覚を培い、広い世界で培った経験を地域に根差す新しい生き方(CompassionとWell-being)として探ることを推奨されました。作家・黒井千次氏の『老いの深み』を引用し、「若さが見落とすものを見出し、蓄積された知によって老いを豊かに変える」意義を示されたのも印象的でした。

今回の講演は、DF会員の特徴である「愉しさ」を原動力とした社会貢献の在り方を再確認させるとともに、加齢に伴う課題を乗り越えるための新たな指針を提示するものでした。会員一人ひとりが「還る」「つくる」「ふるさととなる」姿勢を持ち次世代へ関わる。先生が「恩おくり」とも表現する、その先にこそ、「満足して最期を迎えるための処方箋」があることを示された講演でした。
講演では、先生が関わってきた地域や団体の活動も紹介されました。※抜粋
- 地方県立N校:校舎の急な工事で学び場を失った生徒達に、公民館や市役所開放。
地域住民の交流が生まれた。 - 島根県益田市:「カタリバ」:異世代が1対1で語り合う、ななめの関係。
- 東京都世田谷区「岡さんの家TOMO」:人と街がつながる「地域共生の家」
どのケースも世代を超えた関わり合いを通して、子供たちの活き活きした様子や、関わった大人たちの幸福感が伝わってきました。
講演後は、牧野先生を囲んで和やかに親睦会が開かれました。
以 上(宮武里美)
