近年、日本全国でクマによる人的被害が増えており、人里や市街地にまで出てくるケースが多発している。
世界には、8種類の熊が生息しており、日本においては本州に生息しているツキノワグマと北海道に生息しているヒグマの2種類である。
主な生態の違いは、ヒグマは体長が2-3メートル、体重は200-300キロで大きいものでは500キロもある。

ツキノワグマは1-2メートルで体重が50-100キロで大きいものでも200キロには届きません。

ヒグマもツキノワグマも雑食性で植物中心の食性であり、木の実やサケなどは栄養源としての ご馳走程度でしかない。サケ・植物や木の実以外では、カニやザリガニなどの甲殻類、昆虫類、鳥類、蛇などの爬虫類などもよく食べる。
また、ツキノワグマもヒグマも死肉をあさる動物であり、ほとんど生きた動物を襲うことはない。ツキノワグマもヒグマもそれぞれの習性があり、生息環境や食の環境によって異なることをわれわれ人間は理解しなければならない。
ヒグマは、生息地が函館など道南地域、日高山系の十勝地方、阿寒や知床の釧路根室地方では明らかにその違いがあり、習性も異なってくる。
それは生息環境が畑作地帯、酪農地帯、森林地帯、国立公園かによって異なり、更に狩猟可能地域か狩猟禁止地域の狩猟環境によっても大きく異なってくる。
ヒグマはツキノワグマと違い凶暴性が高く、獲物に対する執着性があり、一度獲物と認識した対象物に対しては過度の執着を見せる傾向が強い。
本来、クマは生きた動物を襲うことはなく、死骸や手負い動物を食する傾向にあり人を襲うような習性は本来ないが、そうではない場合がある。春の山菜シーズンに突然出くわした時、発砲等により危害を与えた時、リュック等を食べ物と認識し奪おうとした時、そして子育て時期には、命に関わる不幸な過去の歴史が多々ある。
発砲を積極的に行う地域では、ヒグマの凶暴性は高く、仕返し本能により人畜を襲うケースが多く起きている。
また、登山者のマナーの悪さによる事件は、過去を含め、多く起きている。この場合はヒグマの学習能力の向上により荷物の中には美味しい食べ物があると認識しており、人を排除しながら荷物を奪うことによる不幸な出来事である。
芽吹の春と実りの秋は、餌が豊富にある時期であるが、夏はクマにとっては餌の少ない厳しい季節である。 縄張り争いもあり、若いクマや老いたクマは餌場の確保ができず、人里に降りて農作物に被害を与えている。クマが人里に下りた背景には自然環境の変化や日本人の動物観、そして熊の学習効果が大きく影響している。
戦後、熊は広葉樹が生い茂る人里離れた山に生息していたが、広葉樹を伐採して針葉樹林に変えたために木の実など本来の食べ物が激減し、山を下りてきた。人里では耕作放棄地が拡がり、残渣の作物もたくさんあることで棲家にしてきた。
更に、母熊の子熊への食べ物の取り方指導により、夜間の路上、観光地、登山道、ゴミ捨て場、更には家屋の中へと母熊の指導と繰り返しの学習によって現在に至ったことを考える必要がある。この間、人間はものを与え、写真に撮り、可愛い、可愛そうと平和的な雰囲気をマスコミと共に醸し出した結果が近年の熊問題である。

このことより日本はクマの生息地であり、北海道でのヒグマは50%以上の地域に、本州のツキノワグマも50%以上の地域に生息していることを知らなくてはならない。
マスメディアによる過剰報道も問題である、又専門家による文献等による知識での発言も大きな問題である。
クマはこの20-30年の中で変化した人間社会を的確に捉えて新たな行動をしている。しかしながら人間の対応は昔の儘で、解決への道筋がほとんどないのが実情であり、共生への道のりは遠のくばかりである。
現状においては、人にとって都合の良い動物だけに共生への道は開かれ、大型野生動物との共生には程遠く、かなり困難であることは事実である。
以 上(赤堀智行)