細胞は生きている ~でもDNAは生き物?
小林慎一郎(1017)

  • LINEで送る

4月16日(第459号)
小林慎一郎

最近、NHKの特集番組などで生命科学が取り上げられる機会が増えています。細胞の中では、さまざまな化学物質が、まるで意思を持っているかのように決まった場所へ運ばれたり、別の物質と結びついたりしながら働いています。その様子を見ると、「これらは生きているのだろうか」と不思議な気持ちになります。

生命の基本単位は「細胞」です。細胞は自らエネルギーを使い、物質を合成し、増殖することができるため、生き物の最小単位といえます。一方、細胞の中にあるDNAは、生命活動を支える「設計図」の役割を担う物質です。DNAそのものは自分で増殖したり動いたりするわけではなく、化学物質として存在しています。しかし細胞の中では、DNAに書かれた情報をもとにタンパク質が作られ、生命活動が維持されます。

つまり、DNAはそれ自体が生きているわけではありませんが、生命を成り立たせる本質的な情報を担っているという意味で、「生命に極めて近い存在」と言えるかもしれません。このあたりが、子どもたちに説明するときに最も難しく、同時に興味深いところでもあります。

FM-AFM像 高校生のためのDNA説明文献
京都大学電気関係教室技術情報誌 (2019), 41: 53-57

そこで、DF理科実験グループでは現在、小中学生向けの新しいテーマとしてDNAの実験授業に取り組んでいます。
学習指導要領ではDNAは中学生から扱われますが、電子顕微鏡でしか見えないDNAを実感として理解してもらうことは容易ではありません。

高校の生物教科書には、ブロッコリーの花芽をすりつぶし、食塩水に溶かしてからエタノールを加えると、綿毛のような物質が現れるというDNA抽出実験が紹介されています。この実験自体は小中学生でも十分に実施できます。

エタノール相に析出した綿状のDNA

しかし、その白い綿状の物質がDNAであることをどのように納得してもらうかは、簡単ではありません。
「これがDNAです」と示すだけでは、子どもたちの実感につながらないのではないかという悩みがあります。

子どもたちと一緒に実験して、抽出した綿状の物質を観察させると同時に、DNAの構成要素の塩基、糖、リン酸を見立てた3種類のビーズを使って、螺旋状のDNA模型を組み立てる工作も取り入れて、DNAの形を実感してもらおうと考えています。

DNAのビーズ模型ストラップ工作

このテーマは2019年から検討を始めましたが、現在もグループ内で議論が続いています。
生きている細胞から、生き物ではない化学物質としてDNAを取り出すという体験を、どのように意味ある学びにできるのか。実験と説明をどう結びつけるかが、大きな課題です。

現代の生命科学や医学生理学、さらには遺伝子工学の分野において、DNAは中心的な役割を果たしています。社会的にも重要なテーマであり、実験を通して子どもたちに伝える意義は大きいと感じています。

この検討の過程で、中学・高校の生物教科書を読み直してみて驚きました。私たちが学んだ頃に比べ、生命に関する内容は格段に詳しくなり、新しい知見が数多く盛り込まれています。物理や化学の教科書は基本原理が大きく変わらないのに対し、生物学はこの半世紀で大きく発展していることを実感しました。

DNAをテーマとした実験は少しずつ形になりつつありますが、子どもたちに「生命とは何か」をどう伝えるかという問いに、まだ答えは出ていません。だからこそ、このテーマには探究する面白さがあり、理科実験グループとしても挑戦を続けていきたいと考えています。

以 上


こばやし しんいちろう(1017)
(理科実験G、授業支援の会、技術部会、観光立国研究会、モンゴル研究会)
(能狂言同好会、彩さい会、蕎麦打ち同好会、古代史研究同好会)
(生成AI活用工房、東アジア放談会、吟亮会、MLB愛好会)
(元 三菱マテリアル)

  • LINEで送る
pagetop