| 日 時 | 4月16日(木)13:00~15:00 |
| 講 演 | 長寿社会に生きる ~長寿時代の新たな生き方と社会の在り方の共創~ |
| 講 師 | 秋山弘子氏 東京大学名誉教授(専門:老年学) 未来ビジョン研究センター 客員教授 東京大学高齢社会総合研究機構客員教授 |
| 場 所 | 702会議室 |
| 参加者 | 9名 + Zoom 51名 |
人口の高齢化社会はイノベーションの宝庫、積極チャレンジを
DF超高齢社会問題研で東京大学の秋山弘子先生が問題提起
「人口の高齢化社会は間違いなくイノベーションの宝庫」―――超高齢社会時代に対応する新社会システムづくりをめざすディレクトフォース(DF)超高齢社会問題研究会メンバー、そしてDF会員全体を強く刺激するキーメッセージです。
このメッセージは、東京大学高齢社会総合研究機構の客員教授で、長寿時代の新たな生き方と社会のあり方を共創させるシステムを研究されている秋山弘子先生が、2026年4月、60人超の人たちが参加したDF超高齢社会問題研究会向けZoom講演で、「超高齢社会時代に企業やDFはどう対応すべきか」というテーマで話をされた際のものです。

時代を先取りする企業が高齢者ニーズに対応する商品やサービス開発を
「ぬれ落ち葉世代の集まりといった形で受け止められていた超高齢社会には、実はシニア世代の思いもよらないさまざまなニーズがあります。時代を先取りする企業が出てきて、それらのニーズに対応する商品やサービスの開発に踏み出せば、超高齢社会はイノベーションの宝庫となるでしょう」と、秋山先生は講演の冒頭で述べました。
DFメンバーの好奇心を刺激したのは、先生のこういった問題提起です。
秋山先生によれば、DFとのつながりが実は長く、DFの10周年、20周年記念大会に相次いで招かれて講演したこと、その際、長寿社会に向けての新たな生き方、高齢者就労などの問題について、問題提起して共感を得たことから、引き続き問題意識が旺盛なDFの方々との交流を深めたい、と考えている、とも述べておられます。
長寿社会対応で3つのアプローチが必要、アジアでは日本に学ぶ動きも
そのあと秋山先生は本題の講演で、まず人生100年時代への対応に言及し、個人、社会、産業の3つの側面でそれぞれ課題設定が重要、と述べました。
具体的には、個人は自らの人生プランをしっかり描き、かじ取りして生きる姿勢で臨むこと、2つは、国や自治体が長寿社会に対応した社会インフラをハード、ソフト両面でつくり直すこと、3つめは、企業が長寿社会の課題解決につながるさまざまなビジネスにチャレンジすること、という点です。
先生は、ここ3、4年、グローバルサウスと呼ばれるインド、インドネシアなど急速に経済成長する国々では人口の高齢化に伴う社会課題、特に年金や医療・介護、高齢者就労などの問題への対応が課題になり、それらの課題解決に取り組んできた日本に学ぼうという動きが目立つ、と述べたあと、「日本が、さまざまな取り組みに磨きをかければ、それらの国々にとって日本は評価、リスペクト(尊敬)の対象になる。人生100年時代の高齢社会をどうデザインするか、その取り組みが日本にとって重要になっている」と述べました。
アクティブ思考をベースに多様なシニア社会づくりにチャレンジが必要
そのデザインづくり関連して、秋山先生は、高齢者それぞれが今後の高齢期に向けた自身のデザインも重要で、「働く」、「学ぶ」、「休む」、「遊ぶ」の4つをうまく組み合わせることを推奨しました。
具体的には、たとえば「学ぶ」について、新たに資格取得にチャレンジするか、大学などで学び直すか、外国語学習、習い事に取り組むかなど、また、「働く」についても、これまでの職場で継続して働くのか、起業するのか、ボランティアワークに従事するのかなどの選択肢をもとに、自らの後半生の人生デザインを描いてみることが必要、というものです。
先生によれば、日本の高齢者はいま、単身世帯の増加、後期高齢者の増加が目立つ一方で、自立志向、さらにファッション性を重視した生活スタイル向上志向も出てきており、ある面でMOVING TARGETともいえる、と問題提起しました。これは冒頭の「高齢社会はイノベーションの宝庫」というメッセージとリンクするものと言えそうです。
先生は、「高齢期は人生のマラソンの後半戦と同様に、身体機能、経済状態、ライフスタイル、価値観において、ばらつきが多く、企業は、多様性あるシニア社会へのチャレンジが重要」述べました。企業にとっていい意味でのビジネスチャンスになるとの考えです。

リビングラボは生活の場での新イノベーション、スエーデンに先進事例
秋山先生が、次に問題提起したのは、生活の場で生活者視点から産官学民で知恵を出し合って共創するイノベーションプラットフォームとしてのリビングラボの活用です。
リビングラボ自体は、スエーデンに先進事例があるそうで、秋山先生は「長寿社会、スマートシティ、低炭素社会などさまざまな社会の課題について、生活者や地域住民が主体になって、課題解決のため、繰り返しテストしながら、行政や企業、大学などとともに、まさに共創という形でイノベーションにチャレンジする。リビングラボはそのチャレンジの格好の場になる」と述べました。
生活者にとっては、地域課題を話し合える場になるし、企業にとっては、生活者のニーズに対応して開発した製品やサービスを市場に送り出すチャンスに、また行政にとっても新たな社会の仕組みづくりに向けた政策や施策を提案する場となる、となるのは確かです。
高齢者が集中する鎌倉市今泉台地区で新たなまちづくりの社会実験
秋山先生が、その具体事例として挙げたのが、鎌倉リビングラボです。2017年に「まちの未来を創る」という問題意識のもとに、鎌倉市今泉台地区で活動がスタート。活動当初の今泉地区は人口5036人のうち、65歳以上が45%、中でも75歳以上が28%に及ぶ、昭和40年代に開発された典型的なオールドなニュータウンでした。
しかし、先生の話では、産官学民の4者による共創、具体的には東大、鎌倉市役所、企業、今泉地区の住民が集まって、当初は住民発案の課題、行政課題、企業課題という3種類のプロジェクトを立ち上げ、社会実験の意味合いもありましたが、全員が長寿社会のまちづくりに向けてのチャレンジに意欲的だったそうです。
具体的には住民課題が、「長寿社会にふさわしいワークスタイルと住宅・地域環境の開発」、行政課題は鎌倉市と住民、また住民間をデジタルでつなぐ「デジタルシフト」、企業課題は「長寿社会の課題を解決し、新たな夢を実現する商品やサービスの開発」など。
「柏モデル」が先行事例、鎌倉リビングラボで住民の意識が変わった
鎌倉リビングラボ活動は、2017年のスタート以来、10年近くになり、今泉台地区という高齢者が多いコミュニティを中心に広がりを見せていますが、秋山先生によると、実は、千葉県柏市の高齢者が集中する団地で、厚生労働省や東大など産官学による連携で進めた長寿社会のまちづくりプロジェクトが成果をあげた「柏モデル」と呼ばれる先行事例があり、その成果が鎌倉リビングラボにも反映された、とのことでした。
先生はその際、「鎌倉リビングラボ活動を通じて、地域社会の課題のみならず自分自身の課題についても解決に向けてチャレンジしようという気持ちが強まり、地域の住民意識が変わったのです。それがベースになって、共創という考え方が現実化しました。まさにオープンイノベーションの始まりです」と述べました。確かに、重要ポイントです。
鎌倉リビングラボに国の内外から見学者、産官学企業の連携には課題も
講演後の質疑で、DF超高齢社会問題研究会世話人の1人、平尾光司会員から「私自身はDF鎌倉支部メンバーで、鎌倉リビングラボ活動に関心を持っていましたが、素晴らしいプロジェクトです。他の自治体などと連携されているのですか」との質問がありました。
これに対し、秋山先生は、「日本全国で100ほどの同種のリビングラボが立ち上がっていて、互いの交流が進んでいる。うれしいことに外国の行政機関が日本の地域活動、とくに長寿社会のまちづくりに関心を示し見学に来てくれている。日本国内でも青森県内の6市の副市長チームが、鎌倉リビングラボ活動を見学したい、と訪れている」と述べました。
先生は、産官学、そして企業を交えての連携に関して、「まだまだ課題を残している。しかし、連携は間違いなく重要で、それぞれが課題を克服しながら、長寿社会のまちづくりという問題にチャレンジすれば、イノベーションの宝庫だけに広がりは大きいはず」と強く力説したのは、印象的でした。
以 上(超高齢社会問題研究会代表世話人 牧野義司)
