| 日 時 | 2026年4月24日(金)14:00~16:00 |
| 講 演 | 「統合報告書を中心とした企業と機関投資家とのエンゲージメントの現状と課題~企業価値向上に向けた期待~」 |
| 講 師 | 松島憲之氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 委嘱アドバイザー Alphaterra Advisory(株) シニア・エグゼクティブ・アドバイザー |
| 会 場 | スタジオ751+Zoom |
| 参 加 | 34名(後日視聴した者を含む) |

講演概要
- 株式市場が注目する3つの大変化は、トランプ政権2・0の影響(世界経済ルールの変化)、インフレの進行(企業の生き残り戦略の変化)、アクティビスト活動増加(経営者の変化)である。
- インフレ進行で急務となる経営戦略の転換として、高く売ることができるかが生き残りの鍵となる。価格転嫁力と差別化がキーワードとなるが、その源泉は知財経営力である。
- 投資家は、知財経営による企業価値向上のストーリーが知りたい、つまりは将来のビジネスモデル等の仮説に基づき、知財投資が生む収益インパクトを把握したいと考えている。これが長期投資家との対話のギャップを埋めることになる。
- 従い、投資家は知財戦略とバックキャスティングで収益構造転換を予測するという思考方法になる。非財務情報を収益予想(企業価値向上)につなげる情報に転換するのが証券アナリストの仕事である。
- 優秀な統合報告書は、知的財産を活用して企業価値を向上させる仕組みを説明している。その視点では、日経統合報告書アワード2025では味の素、伊藤忠商事、富士通がグランプリを獲得。WICI統合報告書アワード2025年では、イトーキ、荏原製作所、TDKが優秀企業賞を獲得した。
- 経営課題の認識と戦略転換の開示が必要となるが、そのために投資家が 期待する成長ストーリーを理解すべきである。
- 知財を経営の中核に置き、事業との連携を強化し企業価値を高めるためには、知財経営力強化のための組織再編と知財人材の育成が重要である。
質疑応答
| Q1 | イトーキの先進事例では、自社の強みをどの様にマテリアリティに落とし込み KPIを設定し分かり易く説明しているのか教えて欲しい |
| A1 | 湊社長他の経営陣は中途入社で大改革を実施した。従業員エンゲージメントスコアを活用して、人的資本改革と組織改革に同時に取組み、「明日の働くをデザインする」というビジョンを従業員に周知したことに伴い財務パフォーマンスも向上した。トップが交代して会社が良くなった実例である。 |
| Q2 | 統合報告書の様々なポイントを指摘されているが、統合報告書の改善をしなければならない日本企業は多いのか? |
| A2 | 圧倒的に多い。表彰されている企業はトップレベル。報告書作成に当たりコンサル会社に頼むことが多いが、優秀なコンサルタントが担当するかどうかがポイント。会社側の協力も必要で、経営トップが例えばセグメント別ROIC開示が重要と考えてくれないと進まない。その点では味の素はトップダウンで進めている。また、社外取締役からの指摘も大切なので、社外取締役は絶え間ない勉強が必要。 |
| Q3 | トランプ政権下での米国では環境対応が劣後しているが、トランプ大統領が退任した後はどう考えるべきか? |
| A3 | 環境対応は長期的には大切であり、オーバーシュートした部分ははげ落ちるであろう。石油危機が起きているので、石炭火力の有効活用が見直されている。4~5年前は自動車のEV化が無理と言い出せなかったが、それが言い出せる状況となっている。これで合成燃料もOKとなり、エンジンも残る。EVで消滅すると思われていたサプライチェーンも残る。日本ではEVは未完成であるが、日本に得意なハイブリッドがある。 |
| Q4 | 日本が変わるためには資料にあるように「知財部門を重視する組織変革」がなされることが大切。現在進んでいる会社は、左から2番目の「経営コンサル型」が多いと思うが、一番右にある「知財ガバナンス型」に進むために取締役会の関与も求められる。 |
| A4 | 組織論では、知財部門の上に取締役会や経営会議があることが重要。事業部制と組織体制はリンクしており、知財経営を戦略の真ん中に置くべき。IPランドスケープを特許を守るために活用するのではなく、積極的な価値創造に戦略面で活用すべき。 |
| Q5 | 機関投資家に知財について環境や人的資本と同じくらいエンゲージメント密度を高め、評価していく為にはSSBJ基準のように評価基準が必要と思うが如何か? |
| A5 | 横一線の基準作りは困難。優秀なアナリストは工場見学や研究所訪問で潜在的な技術分析をしてそこで評価している。銀行の企業価値担保権による融資の目利き力向上も大切。 |
| Q6 | これからの高価格路線への経営転換は富裕層しかついていけないのでは?高付加価値・高価格路線に対応できない顧客への対応はどう考えれば良いか? |
| A6 | 冷凍食品会社では競争が激しいので、値上げができないが、例えば介護施設向けに調理しないで済むワンプレート冷凍商品を高付加価値商品として販売している。所得が低い人対象には安価の冷凍食品を販売している。 |
| Q7 | TDKの統合報告書では事業ポートフォリオと知財ポートフォリオを関連付けて説明しているが、どのような切り口が分かりやすいのか? |
| A7 | 富士フイルムのケース(セグメント別保有特許件数)がわかりやすい。荏原製作所の知財ROICと活動成果の数値化も参考になるのでは。特許の強さの測定も重要。 |
以 上(加藤 佳史)