2026年6月5日(金)10:00~12:00、Zoomオンラインで20名の参加者を得て、第48回OVER80安全保障問題分科会を開催致しました。

和田主宰の開会の挨拶から始まりました。「注視していた米中首脳会談で、米が求めていた項目(過剰生産、政府からの多額な補助金など)についての言及はなく、台湾問題についても米は曖昧な態度に終始、中国はトゥキディスの罠を例に挙げるなど冷静で一枚上の印象を持ちました。これからの世界の秩序は中国に依存する時代に変わりつつあるように感じます。中国は国内の深刻な問題が起きてから、自由陣営と対等な対応に変えてくると思います。本日は中国の主要な産業である自動車の状況を山崎さんに、最近の中国の状況について結城さんに語っていただくタイムリーな企画です」
山﨑雅史さんには「中国自動車産業鳥瞰図」と題し、精緻なデータを基に講演していただきました。既にDF会員へ配信されている動画による説明もありますが、今回はスライドにまとめて解説いただきました。

[要 点]
1984年にフォルクスワーゲンが上海汽車と始めた合弁事業が、外資が地場の自動車メーカーの育成を始めた出発点で、以来、外資の指導の下で中国の国有自動車メーカーは外資の技術を取り込み本格的な成長期に突入しました。一方、BYDや吉利汽車を初めとする民営企業も誕生し独自の成長を始めました。
2020年のコロナ禍を境に今までの「ステータスシンボルとしての外資」から「実用重視の国産ブランド」へと消費者マインドは大きく変わり、新エネルギー車を中心に「より高性能でスマートなクルマ」、コストパフォーマンスのいい車へと流れが大きく変わりました。
その流れの変化に遅れを取った外資は中国市場でシェアを落とし始めました。一方、中国ブランドは右肩上がりでシェアを伸ばし、今ではそのシェアは7割を目前にしています。ホンダや日産はピーク時の販売台数の4割まで落ち込み、トヨタはかろうじて9割の販売台数に踏みとどまっています。
中国の消費者は車内の快適なリビング化を求め、プライベート時間を楽しむためにテレビや冷蔵庫、快適なシート、スピーカーやスマートコックピットを必須とするトレンドが加速していきました。走行性能へのこだわりが強い日本車はこの流れに乗れず「日本車は安全だけど退屈なクルマ」との評価を受ける結果となり、販売の右肩下がりから抜け出せない状態にまで追い込まれました。
模倣を組み合わせることでイノベーションが生まれる、模倣とは巨人の肩に立つ行為で模倣を通じて先人の技術を学び、その先を目指すという、模倣を積極的に捉える姿勢は民営企業として大きく飛躍したBYDの躍進の根幹でした。ベストから学びその先の本物を目指す貪欲さは今の中国自動車メーカーの中にも生き続けており、飛躍し続ける原動力となっています。
米国から制裁を受け西側諸国での活動が制限されているファーウェイと、世界トップの電池メーカーになったCATLが、2019年に結んだ中国の自動車メーカーの電動化とスマート化を促進するための協力協定は、スマートカー技術における格差危機に直面している国有企業を中心に技術の底上げを図り、民営企業に負けないヒットモデルを出し始めています。スマートカー技術の提供に徹し自らはクルマを生産しないファーウェイはそれゆえに間口を広げ、存在感を増しています。世界に類を見ないファーウェイとCATLによる協力協定は、中国自動車産業の強靭な横糸となって今後もその強さを発揮していくことでしょう。
その中国の自動車産業にEVの販売台数でトップとなったBYDをも脅かす変革の新しい風が吹き始めています。ひとつはAIを駆使し自動車だけでなく空飛ぶクルマや人型ロボットへと活動領域を広げているシャオペン(小鵬)で、新テック企業として飛躍の段階に移行しつつあり、テスラに更に近づいた存在となっています。もうひとつは2年前にスマホから参入した「中国のスティーブ・ジョブズ」といわれる雷軍(レイ・ジュン)氏が率いるシャオミ(小米)で、スマホと家電とEVを組み合わせた完全エコシステムの構築を目指しています。
ファーウェイのスマートカー技術やシャオペン、シャオミの先進AI技術は、中国車の競争軸が、ソフトウエアがクルマの価値を決めるSDV「((Software「(Defined「(Vehicle)から、搭載しているAI技術がクルマの価値を決めるAIDV(AI(Defined(Vehicle)へと変わりつつあることを示しています。
成長の活路を海外に求めている中国OEMの、国外での生産拠点の建設の主力は東南アジアや中央アジアから欧州に移りつつあり、特にドイツに次ぐ欧州第2の自動車生産国、スペインがその目玉となっています。生産委託の名門であるオーストリアのマグナシュタイヤーの活用も、投資リスクの軽減と高品質の確保の切り札としての選択肢となっています。一帯一路の要衝であるエジプト・アルジェリア・ナイジェリアへの生産拠点の建設も、将来のアフリカ市場を狙い中国勢は手を打ちつつあります。南米最大の経済大国ブラジルでの生産も、メルコスールの活用によるアルゼンチン等への周辺国への市場拡大も視野に入れ手堅く進めています。欧州での販売においては、欧州最大市場のドイツでは「BYDを筆頭に中国勢は日本勢を追い上げており、イギリスでは販売トップ10に中国勢2社が食い込むまでになっています。
中国には日本の約1.7倍の10万社以上の部品メーカーがあり、日本の約2.6倍の「95兆円規模の自動車部品市場を形成しています。中国のサプライチェーンはOEM「から分社した組織と独立系のふたつのビジネスモデルが競い合うことで、世界最強ともいわれる競争力を生み出しています。中国OEMからの部品部門の分社化の最大の狙いは外販を通じて大量の部品をつくり、スケールメリットを活かして部品コストを下げ、自社車両のコスト削減を図ることにあります。
(これは動画ではカバーしていない番外のコメントになりますが)2024年以降EVが着実に増え始めている欧州市場(下図参照)において、本格的な攻勢をかけ始めた中国勢に対して日本勢はどこまで競えるのか、日本勢の戦略が試される時が近づいています。続々と発表される日本勢のEV販売計画縮小の報道に、日本の自動車メーカーは本当に世界の流れを正しく把握しているのだろうかと不安になります。取り越し苦労で終わればいいのですが・・・
結城隆さんからは2件の資料「二つの首脳会談」「日中関係の行方」を基に講演いただきました。
以下は「日中関係の行方」のまとめの部分です。

日本の安全保障戦略の在り方は?
• 一人では生きられない国」であり、「衰退途上国」であることを自覚する。
• まずは、幅広い国家間の通商ネットワークをもとに、それぞれの国・地域との平和・友好を官民挙げて維持・発展させる。
• 防衛については、自衛の範囲にとどめ、攻守同盟といったNATO型の集団安全保障は避ける。
• 現下の防衛方針を打ち出すに至った「厳しい国際環境」は、誰がもたらしたのか、厳しさは解決不能なのか、について改めて問い直すことが第一歩。
• 但し、ICTやAI技術の進化に乗り遅れている日本は、安全保障の根幹でもあるIT・AI技術において米国企業に頼らざるを得ない状況。
日中関係の行方
•「政冷経穏」の状態が続く。経済面では、中国はデュアルユース品目の輸出管理や軍需関連企業の管理など、法に基づいた手段を活用し、日本の軍需産業及びその関連サプライチェーンに対して的を絞った抑制を実施する一方、正常な経済・貿易の基盤は維持している。
• 現状、民生や環境など政治色の薄い分野での交流に限定されている。
• 関係改善は、高市政権後という見方が強い。
• ポイント:6月の国貿促の広州訪問に森山元幹事長が参加する可能性、9月23日に名古屋で開催されるアジア陸上に中国政府のどのレベルの高官が出席するか。
これら2件の講演に対して、出席者各位から様々な意見が交換されました。
和田文男主宰のまとめの挨拶でお開きとなりました。
「地政学的にも日中関係は最も重要で避けて通ることができません。日本は武力行使など誰も考えていないし、中国もそれを分かっているはずなのに、中国からの子供じみたいやがらせ、例えば海上、漁業、海底ケーブル切断などの行為が多くみられ残念に思います。これらは中国の戦略かもしれません。日本は淡々として内部を固め、外部とは不要な摩擦を避け、新たな秩序に対応することが必要です。日中関係を良い方向に進めるためにも、かつて議論したように憲法改正は行わず、国内の弱点を固めていくことが肝要であることを、より一層強く感じた講演でした。」
以 上(保坂洋)