アクティブな超高齢社会日本はつくるには、どうすればいいだろうかーーという問題意識を持つディレクトフォース(DF)超高齢社会問題研究会は、2026年6月8日、エコノミストで新潟県立大学名誉教授、独立行政法人経済産業研究所コンサルティングフェローなど、多方面で活動される中島厚志氏をお招きして、ZOOMミーティング形式によるオンラインで、超高齢社会時代に直面する日本、そして企業はどう対応すべきか、「安心して生きられる超高齢社会」は可能かというテーマについて、お話をうかがいました。

DF側は、知名度の高い中島氏がゲストスピーカーであることに加え、テーマ自体に対する関心度が高かったのか、50人強の会員の方々がZOOM視聴しました。
低成長や少子高齢化で社会保障制度の持続性が問われる現実
中島氏が講演の中で問題提起されたポイントは、世界で突出して超高齢社会化しつつある日本にとって「安心して生きられる超高齢社会」づくりはどんなものなのか、実現に向けてチャレンジするとすれば、何が課題になるかを探ることだ、という点でした。
その点に関して、中島氏は、「安心して生きられる超高齢社会」にとって、まず健康であること、金融資産など資産の蓄えがあること、高齢者就労などで働き続けられること、そして経済成長が続くことなどが必要と述べながらも、現実は課題が多い、と指摘しました。
具体的には、戦後の経済復興が一段落した1980年代以降の経済成長の鈍化に加えて、少子高齢化が大きく響いて、社会保障制度をめぐる情勢は厳しさを増していること、このため、政府は、社会保険料の引き上げ、年金受給開始年齢の引き上げなどで対応しているものの、それでも社会保障支出の増加を主因とする財政赤字の拡大によって、社会保障制度そのものの持続性が大きく問われる事態になっている、と中島氏は述べました。
「安心して生きられる超高齢社会」は、日本にとって、間違いなく重要。そして多くの高齢者がその点を望むことだが、客観情勢は厳しい、と言わざるを得ない、というわけです。
長寿リスクなど老後を脅かす3つの不確実性が問題
そこで、中島氏が問題提起したのは、「老後を脅かす3つの不確実性」がある、という点です。
1つは、医療・介護費の不確実性で、いつ、どれだけ費用がかかるか不明、大病一つで設計が崩れる恐怖があること、
2つめが長寿リスクで、何歳まで生きるか不明のため、資産の取り崩し速度を決められないリスクがあること、
3つめが制度リスク、インフレリスクで、具体的には年金額・税制の変更、そして物価上昇への不安などが高齢者の消費を委縮させる要因になりかねないことなどを中島氏は挙げました。
「新社会モデル」への移行期、成長確保が最大の社会保障政策
この点に関して、中島氏がとくに力説したのは、超高齢社会が、国で一律に保障する「従来型の福祉国家モデル」から、今は経済成長と個人の自助努力が相乗効果を生む「新しい社会モデル」づくりへの移行期にある、という点でした。
中島氏によれば、年金・医療制度は今後も社会保障の基本であり続ける。しかし、それだけでは超高齢社会を支えきれない。安定した名目成長の確保が最大の社会保障政策であり、経済成長は、税収増と財政健全化を通じて給付維持・増加につながる。
同時に、賃金上昇は現役世代の貯蓄力を高めて、将来の高齢者の資産保有につながるとともに、高齢者雇用も創出していく。望ましい超高齢社会というのは、現役世代が活躍して、経済成長する社会をつくることでもあるそうです。
「健康で働き資産を持ち成長経済で老後を送る」社会めざせ
さらに、中島氏は「個人の側にも、長く学んで生涯所得を最大化すると同時に、健康寿命を伸ばして、楽しくアクティブに働き続け、NISA(小額投資非課税制度)や確定拠出年金などを活用して資産を自ら形成し、成長経済の中で、その資産価値を維持する自助努力が求められる」とも述べました。
要は、従来のモデルは、「貯蓄して引退する社会」であり、現役期に貯蓄し、定年引退後にその貯蓄を取り崩し、そして、年金・医療は国が保障し、引退後は消費に充てる、というものだった。しかし、新たな超高齢社会のモデルは、「健康で、働き、資産を持ち、成長経済で老後を送る社会」ということだ、というのが中島氏の主張ポイントです。
70歳就業機会確保など高齢者活用社会の確立が社会課題に
また、中島氏は、高齢者の就労問題を取り上げ、超高齢社会時代に対応する70歳就業機会確保や年金制度の見直し、雇用のマッチング支援を通じて、高齢者活用社会の確立が今後重要な社会課題になる、と問題提起しました。
中島氏によれば、企業のもとで働き続けるための「延長雇用」から、今後は「年齢ではなく能力や希望に応じた就労」への転換ということが間違いなく望ましい、としながらも、まだ課題が多い。社会の高齢化が進む日本を支えるには、なお処遇・職務・能力開発・健康管理の一体的な制度の再設計が不可欠になる、という問題意識でした。
これらの中島氏の問題提起型講演を受けての質疑では、まず「日本の超高齢社会システムは、これから高齢社会化が本格化するアジア諸国などの関心事になる。その点で、日本はどういったアジア社会への貢献が考えられるか」という質問がありました。
この点については、中島氏は「少子高齢化で先行する日本の経験をアジアのみならず世界に対して、どう広げていくか、という点が極めて重要です。しかし、現実は、日本の制度の枠組みがまだ規制でがんじがらめにしばられています。アジアなどのニーズに積極対応する意味でも、日本は、規制の撤廃などに取り組むべきだ、と考える」と答えました。
フランスは哲学必修、思考力上げる教育で成果、日本は学ぶ必要
また、日本の大学・大学院教育を経た高学歴が産業や企業の現場で活かされていないのは問題でないか、という質問に対して、中島氏は、自身のフランスでの小中学校の教育現場での体験を披露しながら、「考えること、思考力を高める教育を戦略的に進めていくことが今後、日本でますます重要になります」と述べました。
その点に関連して、中島氏は、フランスでは哲学が必修科目であること、それらによってものごとをしっかりと考える教育に徹し、成果を上げている。日本は、高校、大学までの進学率が高いが、受験のための知識詰込みの教育が先行し、思考力を高める教育になっていないことが大きな問題と言える、と問題指摘されました。
このほか、シニア就労問題や少子高齢化問題、年功序列型賃金の撤廃検討問題などにも質疑が相次ぎ、まさに談論風発の会合でした。
超高齢社会問題研究会会合としては、中島氏をお招きして問題意識を共有できたことは、なかなか有益だった、と感じています。

以 上(代表世話人 牧野義司)