第5回企業ガバナンス月例セミナー講演要旨(柿﨑環氏)

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日時2024年1月31日(水)14:00~16:00
テーマ「新しい内部統制システムの整備運用に向けた取締役会の留意点」
講師柿﨑 環 氏
明治大学教授 
場所スタジオ751 + Zoom
参加者33名

講演概要

  1. 内部統制基準改訂(2024年4月以降開始の事業年度から適用される)本改訂基準のポイントは
    • 「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」へ変更リスクの対象に「不正に関するリスク」が追加独立的評価により識別された問題点は、経営者だけでなく取締役会に対しても報告内部統制とガバナンス及び全組織的リスク管理が一体的に整備及び運用されることの重要性重要な事業拠点の選定指標や業務プロセスの識別に関して、例示が注記に移行され画一的に定めるものでないとされた
    などであるが、金商法が要求する内部統制監査の評価対象は変更されていない。
  2. 中長期的な課題今回の改訂で中長期的な課題として以下が示された。
    • 非財務情報の取り扱い(誰が評価するのか)
    • ダイレクト・レポーティングのあり方
    • 経営者の責任明確化や課徴金や罰則規定
    • 会社法と金融商品取引法の内部統制の統合 など
  3. 上記改訂や企業開示府令改正がもたらす会社内部統制への影響2023年3月期から適用されている「金融審議会ディスクロージャーWG報告(2022年6月)を踏まえた内閣府令改正」では、「有価証券報告書の企業の概況」における「従業員の状況等」、「サステナビリティに関する考え方及び取組」、「コーポレートガバナンスの状況」の各項目での記載内容について新設や充実が図られ、特に、サステナビリティついては、その考え方や開示の概観、開示のロードマップが示されている。これらの内容は、TCFD提言で推奨される情報開示が、さらに源を辿ればCOSO内部統制や2017年の改訂ERMが下敷きとなっている(明示はされていないが)。 取締役会や内部監査部門として、2024年4月以降の適用時に留意すべきポイントは、
    • 非財務情報の信頼性を高めるよう社内体制を整備すること評価範囲の決定については、企業環境の変化に応じた新たなリスクを識別すること
    などであり、②中長期的な課題への対応としては、会社法内部統制への柔軟な対応によりサポートすべきであり、具体的には、会社法施行規則100条が参考となる。
  4. VUCA時代の取締役会の役割と課題
    • VUCA時代の変化の予測困難性や価値の多様化を踏まえ、特にサステナビリティ関連情報の特殊性を勘案すれば、リアルタイム情報をもとに機敏に対応できるローリングフォーキャスト経営を実現できるよう取締役会による監督機能の高度化が求められている。
    • そのためには、多様なチャンネルから適時に情報収集し、リスク評価について審議し、中長期的な企業価値向上を支える意思決定を行い、企業ミッションの実現を目指すことであり、これの実行により法的には経営判断原則が適用される。

質疑応答

Q1会社法の内部統制は、食品偽装や品質不祥事をきっかけに20年ほど前に導入されたが企業の不祥事は相変わらず繰り返されているが、法律の整備が不十分なのではないか?特に連結子会社における対応はどうなっているか?
A1法律は具体的な対応までは明文化しておらず、監査役協会のガイドラインやCGコードなどを参照して監査役が監督すべきであろう。子会社については、企業集団内部統制が平成26年の会社法改正で導入されており重要性は認識されている。
Q2サステナビリティ開示において、第三者による保証を議論しているとのことだが、第三者を監査人とすれば保証という行為は適用会社と同じ相当重い責任を負うことになるがそれは可能なのか?
A2保証はAssuranceの訳であり、財務諸表監査であっても「合理的保証」です。サステナビリティ情報についてはその特殊性を勘案すると「合理的保証」レベルでも到達するにはしばらく時間がかかるが、EUは数年内の実現を目指して検討を進めており、いずれIT技術なども使って手法も確立され、まずは限定的保証から始まることになると思う。
Q3サステナビリティに関連して、CGコードの上では気候変動と人的資本と共に開示が求められている知的財産については、特に米国のGAFA等と比べ我が国企業は無形資産の評価が遅れていると思うが、開示に当たっての開示基準やKPIはSSBJでどのように議論され定められつつあるのか?
A3特許等の情報漏洩について情報セキュリティーや経済安全保障の面で政府は気にしているが、知的財産や無形資産の開示基準については、その範囲など捉え方が国によって異なり、日本は遅れていると思う。
Q4リスクテイクの在り方について、監査役や社外取締役はどう具体的に対応すべきか?
A4適法性監査や妥当性監査という枠を外して、ERM的な経営戦略の評価の中で対応出来ると思う。時代遅れのルールを変えるなども具体例の一つと思う。
Q5内部統制基準改訂への対応にとどまらず会社法の内部統制的なリスクマネジメントの整備が望まれ、そのためには「改訂ERMの5つの構成要素と20の原則」が良く出来ていると思うが、会社での積極的な取り組みが広がっていないように思うがどうすれば良いか?
A5日本の企業は法定開示には真剣に取り組むが任意開示には疎かになり勝ちではある。しかし、サステナビリティ開示では、リスク及び機会に対するガバナンス体制を記載するように定められており、日本企業の中でも先進的なグループは、そのような取り組みが急速に進んでいるので、多くの企業もその方向に進んで貰いたいと思う

以上(田中 久司)

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