12月16日(第451号)
松井明雄
昭和100年目を迎えた今年、私は64歳になりました。新卒で入社した会社を3年前に卒業し、現在は一般財団法人の役員、中小企業の顧問、大学生のキャリアカウンセリングなどの仕事に就きながら、ディレクトフォースの活動に参加しています。
60歳を迎えようとしていた頃、当時話題になっていたリンダ・グラットン教授の『LIFE SHIFT』を読み、退職後は、本書で紹介されている「ポートフォリオ・ワーカー」(さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる働き方)を目指そうと思い、現在に至っています。

売上や利益を追求せず公益的・社会的な目的で活動する財団法人。小規模ながら大企業にはない良さを持ち、時には大企業と異なる発想が必要となる中小企業。これまでの経歴や肩書とは関係なく一人のキャリアコンサルタントとして学生と一対一で向き合う大学でのキャリアカウンセリング。いずれも長年勤めてきた会社とは異なる環境の中で、視野を広げながら第2の職業人生を楽しんでいます。そして、ディレクトフォースでは、さまざまなビジネスで成果を上げてこられた大先輩方がいきいきと活動されている姿に触れ、自分はまだまだ“ひよっこ”だと感じ、自己研鑽に努めています。
趣味は、読書、ウォーキング、演劇・美術鑑賞など月並みですが、5、6年前から“骨董市”と“古本屋”が加わりました。
“骨董市”
骨董市との初めての出会いは、1998年のフランス。出張先のパリから帰国する土曜日の朝、近くで開かれていた骨董市に足を延ばしました。想像以上に大規模で、さまざまな骨董品が並び、地元の人らしい客たちが真剣な眼差しで品定めをし、店員との会話を楽しみながら買い物をする様子は今も記憶に残っています。掘り出し物を探すというより、日常で使う食器や部屋に飾る置物、腕時計や万年筆など、古き良きものを大切に使おうとする欧州人の気質を感じました。当時の私は、誰が使ったか分からない“中古品”にはあまり興味がありませんでした。それでも、その場の雰囲気に影響されたのか、高さ10センチほどの四角い真鍮製の機械式置時計(スイス・ゼニス社)が目に留まりました。店主によれば、第二次世界大戦中に製造されたものとのこと(真偽は不明)。機械式腕時計にこだわりを持っていた私は、置時計ながらも、長い年月が醸す重厚で凛とした佇まいに一目惚れ。しかし、手持ちの現金(フランス・フラン)が足りず、交渉はしたものの買うことができなかったのは今でも心残りです。
時は流れて20年後の2018年。都内を散策していたとき、靖国神社の参道で開かれていた骨董市に出会いました。パリのような洒落た雰囲気はなく、どこか怪しげな空気が漂い、商品もいわゆるジャンク品が多い。それでも、仏像や壺などの陶器、昔の商店に飾られていた古いポスター、鉄道の行先掲示板など、マニアの心をくすぐる品々が参道の両側に並んでいました。観光客らしき外国人が値引き交渉をしている様子を眺めるのも楽しみでした。その後、東京オリンピック2020に向けた参道整備工事のため、残念ながらこの骨董市は廃止となりました。
最近は、文京区の護国寺や新宿の花園神社で開かれる骨董市に足を運んでいます。並べられた品々を眺めながら、気さくに声をかけてくる店主との会話や、品定めや値段交渉に夢中になっている客の姿を眺めて楽しんでいます。以前は中国人観光客が多かったですが、最近は欧米人や中東系とおぼしき来訪者も増え、国際色豊かな雰囲気です。私自身は珍しい品を手に取り、その時代に思いを馳せながら市場の空気を楽しむだけで、売り上げにはあまり貢献していません。それでも、コーヒーカップや酒の猪口、妻が見つけた装飾品など、気に入ったものは時折購入します。時々、機械式の古い置時計を見かけますが、パリで見たゼニスのように「これだ」と思える逸品には、まだ巡り合えていません。


“古本屋”
これも、都内を散策していてふらりと立ち寄った神保町の古本屋がきっかけでした。それまで私は、骨董品と同様、誰が手にしたかわからない古本にはあまり興味がありませんでした。ところが、試しに買ってみたハヤカワミステリーにすっかりハマってしまいました。お気に入りは、1960~70年代のニューヨークを舞台にした刑事物。特に、トマス・チャステインの「カウフマン警視シリーズ」は、古本屋をあちこち探し歩き、見つけるたびに購入しては一気に読みました。
今はデジタル時代、私も一時は電子書籍に興味を持ったことがあります。しかし、変色した古紙に印刷された活字を追いながら、半世紀前のニューヨークに思いを馳せるのも味があります。紙の色や手触り、匂いを通じて想像力を働かせながら読む楽しみ。「脳は紙の本でこそ鍛えられる」という説もあるそうです。
古本はAmazonなどでも容易に手に入りますが、落ち着いた雰囲気の古本屋に足を運び、年代物の小説を探す時間は、贅沢な楽しみです。つい最近も、探していたレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』(1953年 “The Long Goodbye”)を見つけ、さっそく読み始めました。(この作品は2007年に村上春樹氏が『ロング・グッドバイ』として翻訳していますが、日本語訳の初版は1976年、清水俊二氏による『長いお別れ』)

とりとめもなく思い出したことを書いてみましたが、人生100年の時代、いろいろな仕事や活動・趣味を通じて、少しずつ人生の幅を広げていきたいと思います。
まつい あきお(1400)
(元・花王)
(企業ガバナンス部会、企業支援グループ、環境教育分科会)