トランプ関税に関する考察
秋山武夫会員(1417)

  • LINEで送る

ニューヨーク在住の弁護士 秋山武夫会員(1417)より、トランプ関税について以下の記事が届きました。
秋山会員は、昨年11月の第42回知楽会にて、「トランプ大統領の包括関税をめぐる憲法訴訟と今後の展開(第二回)~火薬庫を抱えたトランプ政権~」と題してご講演頂きましたが、下記はその続編となります。


2月20日最高裁は「IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく大統領の包括関税が憲法違反である」との最終決定を行ないました。 9人の裁判官のうち6人が多数意見に加わり、そのうちの3人は共和党系の判事であり、そのうち2人(Neil Gorsuch, Amy Corney Barret)はトランプ大統領が任命したものでした。

昨年11月、ディレクトフォースにおいて「トランプ大統領の包括関税をめぐる憲法訴訟と今後の展望――深刻な火種を抱えたトランプ政権――」と題するセミナーを行いました。その際、私が申し上げた要点は次の三点でした。

第一に、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく包括関税は、最終的に無効とされる可能性が高いという点です。最高裁判事9名のうち6名が共和党系であり、そのうち3名はトランプ大統領による任命であることから、政治色の強い最高裁が、違法という大きなインパクトを伴う判断を正面から下すかについては、疑問視する見方も少なくありませんでした。また、包括関税の是非そのものについて判断を回避する理屈を、何らかの形で構成しようとする裁判官が現れる可能性も想定されました。しかし、誤った憲法判断は国の統治構造に深刻な禍根を残します。そのため、落としどころとしても、少なくともベースライン型関税については違憲とする判断が示されるのではないかと、当時の私は予測していました。
第二に、その場合には、還付請求の爆発的増加、通商政策の自由度の低下、国際的信頼の毀損、国内政治への打撃(11月の中間選挙への影響)といった深刻な問題が連鎖的に生じ得る点です。
第三に、当時すでに最高裁では2025年11月に口頭弁論が行われ、早ければ2025年末には判決が出され、違法であるとの判断の可能性が高いと見込まれていたにもかかわらず、メディアの反応が極めて薄く、この問題の重要性が十分に共有されていないという点でした。

今回、その懸念は現実のものとなりました。判決の結論自体は、私の予測の範囲内にありますが、判決後のメディア報道や解説は、依然として表層的なものが多く、かえって状況の理解を混乱させている印象を受けます。そこで、本件を整理する目的で、以下に要点をまとめます。
基本的な問題意識は、前回のセミナーから変わっておりません。(秋山)

会員の皆様の理解のため、「トランプ関税」と総称されるものは、次のように整理して捉えるのが適切です。
(1)従来の関税
 WTO枠組内の最恵国待遇税率など、従来から存在する通常の関税。
(2)IEEPAに基づく一律上乗せ(ベースライン型)
 全輸入品を広く対象に、一定率(10%)を一律に上乗せするタイプ。
(3)IEEPAに基づく国別上乗せ(相互・報復型)
 対米貿易赤字や非関税障壁などを理由に、国別に税率を変動させるタイプ。
(4)個別関税(通商拡大法232条・通商法301条など)
 鉄鋼・アルミ、自動車など特定品目を対象とする232条関税や、中国など特定国の不公正な貿易慣行を理由とする301条関税。
(5)麻薬・国境問題等を名目とした追加関税
 フェンタニル流入などを理由に、IEEPAを含む枠組みで特定国に課される追加関税。

重要なのは、「トランプ関税」と一括りにされがちですが、実際には根拠法の異なる複数の関税措置が混在しているという点です。今回、連邦最高裁が「根拠なし」として違法と判断したのは、このうちIEEPAを根拠とする関税、すなわち上記(2)(3)(5)に限られます。通商法301条や通商拡大法232条など、別の法律を根拠とする関税は、本判決の判断対象ではありません。「トランプ関税がすべて消えた」という理解は誤りです。メディアでは、今後、232条や301条に基づく関税の適法性についても議論が進む可能性があると報じられていますが、少なくとも現時点では、これらが違法とされ、裁判で無効とされる可能性はないと見ています。

IEEPAルートが最高裁によって封じられた以上、トランプ陣営は別の法的根拠による対抗策を模索することになります。現実的に最も可能性が高いのは、通商法122条の活用です。もっとも、同条に基づく関税は、発動期間が最大150日に限定され、税率にも上限(15%)があります。そのため、まずは短期的なつなぎ措置として122条を用い、その後、より恒久的な枠組みとして301条や232条の活用が検討される可能性があります。ただし、これらはいずれも対象国や対象品目が限定されるため、IEEPAを用いた包括関税のように「全世界向け一律関税」を再現することは制度上困難です。どのような形で政治的メッセージと圧力を再構成してくるのかが、今後の焦点となります。

今回の敗訴をもって、トランプ陣営の「失策」と評する見方もあります。しかし、私は、IEEPAルートが法的に脆弱であることは、当初から予見されていたと考えています。すなわち、違法性のリスクを承知のうえで、あえて最大規模・最短距離のルートを選択した、いわば「ダメ元」の戦術であった可能性が高いという理解です。
本判決の核心は、「トランプ関税」一般の是非ではなく、「同じ“トランプ関税”の中でも、IEEPAを根拠とする関税だけが、根拠法がないとして否定された」という点にあります。2026年2月20日の最高裁判決は、IEEPAが大統領に関税賦課権限を与えていないことを明確に述べ、IEEPA関税というルートを制度的に閉じました。

したがって、社会現象として捉えるなら、トランプ関税とは、単なる関税政策の集合ではなく、法的根拠の異なる複数の関税を束ね、政治的メッセージと交渉圧力の道具として運用してきた統治スタイルであり、今回の判決は、その中で最も包括的かつ強力だったIEEPAルートに歯止めをかけたものと位置づけるべきでしょう。

最高裁判決は、還付の可否について直接言及していません。この点について、メディアでは「不透明」とする論調が目立ちますが、私はそうは考えていません。最高裁が違憲・無効と判断した以上、最終的に当該関税に基づいて徴収された金額については、原則として還付請求権が生じたと整理されるべきです。
裁判は「トランプ関税が違法かどうか」の抽象論の話ではなく、訴えの利益のあるものが、その利益を実現するために行われるものであり、原告の請求の一つが還付請求であったからです。今後争点となり得るのは、還付請求の「権利の有無」ではなく、手続面、すなわち個別の請求に瑕疵があるかどうかという点に限られます。確かに、手続上の不備によって一部が認められないケースはあり得ますが、基本構造としては還付請求の権利自体は確定したと見るのが自然です。

トランプ陣営は、訴訟が長期化し、最終決着まで数年を要する可能性を強調していますが、それはあくまで手続をめぐる争いの話であり、「還付の権利そのものが存在するか否か」というレベルの問題ではありません。

最後に参考までに、大統領が議会の授権に基づいて関税や輸入制限を発動し得る主な法律と、その代表的な運用例を整理します。

・国際緊急経済権限法(IEEPA, 1977年)
本来は国家安全保障や外交上の重大な脅威への対応を想定した法律であり、関税そのものを定める法律ではありません。イラン革命後の資産凍結や、ロシアのウクライナ侵攻後の金融制裁など、経済制裁の中核的根拠として用いられてきました。

・通商法301条
外国政府の不公正な貿易慣行に対する報復措置。2018年以降の対中追加関税が典型例です。日本国も当時のクリントン政権との貿易摩擦によりスーパー301条のもと、半導体、鉄鋼、自動車などの分野で大変苦しめられました。今の日本経済の衰退の原因はここにあるとも言われています。

・通商法201条
輸入急増による国内産業への深刻な打撃への対応。太陽光パネルや大型洗濯機に対するセーフガード関税が代表例です。

・通商法122条
国際収支悪化への緊急対応として、短期間・上限付きで一律課徴金を課す制度。1971年のニクソン・ショック時の10%輸入課徴金が典型例です。

・通商拡大法232条
国家安全保障を理由とする輸入制限。鉄鋼・アルミへの追加関税や、自動車・同部品をめぐる通商圧力が該当します。

・関税法337条
知的財産権侵害等を理由とする輸入差止め。スマートフォンをめぐる米韓企業間の排除命令が象徴的事例です。

以 上(見目久美子)

  • LINEで送る
pagetop