地域デザイン総研と連携を図る、牧野篤先生(DF地域デザイン本部長、大正大学教授)が代表理事を務める人生100年社会デザイン財団が、毎月「人生100年社会デザイン・ハブ」と称する講演会を開催しています。
この度、興味深い講演会が開催されましたので、ご紹介致します。
大都市ではない地域の活性化に寄与する活動として、名産品創出、企業や観光誘致などを思い浮かべる方も多いと思いますが、そうではない、このような活動でも大いに地域の活性化に貢献することが出来る事例として感動いたしました。
日時:2025年6月25日(水)14:00~16:00
場所:シン・クーカン(広尾、株式会社ISS内)
方式:対面とオンラインのハイブリッド講演会
講師:黒澤浩美氏(株式会社ヘラルボニー、Chief Art Officer, CAO)
黒澤氏は初めのアイデアを出す段階から、金沢21世紀美術館設立計画に責任者として関わりました。全都道府県が美術館を建て終わり、その後バブルがはじけた後に、金沢での美術館建設計画が持ち上がったのだそうです。

美術館の役割は、第一世代というべき権力者が倉に納めていた作品を見せることから始まり、第二世代は一般の人々に鑑賞してもらう市民革命が起き、そして第三世代は鑑賞するだけではなく、コミュニケーションの場を創出する「繋げていく」役割に変化しつつあることを実現するべく、地元の学芸員と共に街づくりと併せて計画を進め、あの素晴らしい金沢21世紀美術館を実現しました。
そして、日本財団のペーパーで知ったHERALBONY社へ転職されます。盛岡市で設立された会社で、社長の松田氏は二児の父親、兄の翔太氏が自閉症で画家です。社名は翔太氏の創作とか。同社は障害を持つ作家から、作品のデータを受け取り、企業へ企画提案して採用された場合のロイヤリティー収入を作家とシェアする仕事をしています。
今では54施設の243名の作家を抱え、JALビジネスクラス配付バッグのデザイン、東京駅チケット売場のラッピング、パイロット万年筆軸、バスや電車のラッピングなど、100社ほどの実績があり、ロイヤリティー収入は急伸中です。
大手町で展示会を開催したり、銀座2丁目にギャラリーを開設、福祉のイメージが少ない場所に実験的に開設し、全国へ広げようとしています。
目の見えない人にパートナーを付けて絵を説明して巡る美術館ブラインドツアーも行っています。
海外への展開も図っていてLVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンと協力しパリにオフィスがあります。
このような企業環境を創りながら、黒澤氏は何を目的に働いているのでしょうか。それは「社会を変えるために仕事をしている」と述べています。
「その一つに、障害者の・・・、と言わなくて済む社会の実現があります。害と付けるのはおかしいと思います。誰しも何がしか持っているもので、『全ての人がありのまま生きる世界』としたいのです。美術、美術館の持つ力は、文字の読めない人の文化の促進、行き詰っている人々の解決の場にもなると考えています。即効性、効能を求めず長く継続することでボディブローのように効いてくるはずです。この活動を世界に広めたいと実行しています。国内では社会の制度設計を変える力を付けたいと考えています。」
このような高い志を持って活動している企業の本社が盛岡市にあるということで、企業の活動の場が日本各地、世界へと広がるほど、本社のある盛岡市の価値が向上します。
地域活性化というと、名産品作り、観光客増、工場誘致、移住者増などが頭に浮かびますが、それらとは一線を画す一つのロールモデルであると筆者は感じました。
[講師:黒澤浩美氏略歴]
ボストン大学(マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)卒業後、水戸芸術館(茨城)、草月美術館(東京)を経て2003年金沢21世紀美術館建設準備室に参加。建築、コミッションワークの企画設置に関わる。2004年の開館記念展以降、多数の展覧会を企画。「オラファー・エリアソン」「ス・ドホ」「フィオナ・タン」「ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー」など、国内外で活躍する現代美術作家と作品を紹介。ミュージアム・コレクションの選定や学校連携や幅広い年齢の来館者に向けた教育普及プログラムも企画実施。2011年City Net Asia(ソウル、韓国)、2017年OpenArt(エレブロ、スウェーデン)、2018年東アジア文化都市(金沢)にて総合キュレーターを務める。
以上(保坂 洋)