第57回環境セミナー
「EUグリーンディール政策~企業戦略と国際標準化の最前線」

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日時2025年7月30日(金)15:00~17:00
演題EUグリーンディール政策~企業戦略と国際標準化の最前線
講師竹中みゆき会員(1509)
会場スタジオ751+Zoom
人数42名

講師の竹中みゆき会員は、2016年まで株式会社東芝研究開発センター、環境推進部に勤務し、2016年、株式会社日立ハイテクに入社し、事業戦略部環境戦略部長を務めています。
1997年、名古屋大学にて博士号(理学)を取得。
2005年よりIEC(国際電気標準会議)TC 111(電気・電子製品・システムの環境標準化)活動を開始。2023年よりIEC/TC 111国際議長として、気候変動、サーキュラーエコノミーはじめ、Sustainable Society へ貢献するための水平的な環境規格の開発を推進しています。

欧州グリーンディール政策は2019年12月、「環境」と「経済」を両立させる成長戦略として公開された。政策と関連法案を連携させて、産業政策に強制力を持たせて推進している。
グリーンディールの背景は、気候変動への対応と産業変革であり、世界に対するリーダーシップ、欧州の価値観、未来への貢献という理想主義と、高額な初期投資、一部の国、企業の反発、改革の遅れ、発展途上国との公平性確保、グローバル協調といった限界に直面している。ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機にも大きな影響を受けている。

地球温暖化対策に関する欧州と米国の政策対応を比較すると、欧州は、規制強化、カーボンプライシングといった「負のインセンティブ(動機づけ)」であり、プッシュファクター。米国は税額控除や需要喚起と「正のインセンティブ」であり、プルファクターと呼ばれる。

欧州グリーンディールが経営に与える本質的な意味は、環境規制に留まらず、市場ルールそのものを再定義する政策であることで、将来の成長セクターを先取りするヒントがある。リスク管理に留まらず、成長機会として捉える視点が重要である。

以下の各欧州政策について詳細の説明をいただいた。

1) Fit for 55

2030 年までに温室効果ガスの排出量を少なくとも55%削減するための政策提案。

2) EU域内排出量取引制度(EU-ETS)

企業や施設に対し、排出量の上限を課し、その上限を段階的に引き下げることによって排出量削減を目指す制度。

3) 炭素国境調整メカニズム(CBAM)

国内外の炭素価格の差を埋めて、自国から他国への「カーボン・リーケージ(排出の漏洩)」を防ぐことを目的とする措置。

4) Critical Raw Materials Act (重要原材料法)

気候変動対策やデジタル移行を進めるうえで不可欠な重要鉱物(Critical Raw Materials)の安定供給を確保するための法案。

5) 欧州電池規則(EUバッテリー規則)

ライフサイクル全体の温室効果ガス排出量による規制ほか。
電気自動車の環境影響については、製造時のCO2排出量がガソリン車より多い。また、国の電源構成によって電気自動車の環境負荷が大きく変わる。

6) 欧州ESPR規則

エコデザイン指令を改正し、域内市場ほぼ全ての製品に拡大。製品の環境情報を、デジタル製品パスポートを通じて消費者に提供する

1) 主な国際標準化機関

  • IEC電気技術分野
  • ISO電気・通信を除く全分野
  • ITU-T通信分野

2) 標準化機関の分類

  • 民間:GHG Protocol、WBCSD、DVDフォーラム、MPEG、IEEEなど
    → デファクト(de facto standard)
  • 公的:国内標準化団体 JISC、ANSI、DIN
       国際標準化機関 地域(欧州)CEN、CENELEC、ESTI
               国際 ISO、IEC、ITU
    → デジュール(de jure standard)

3) WTO/TBTの発効(1995年)

各国に国際規格に従うことを義務付ける。欧米先進国は国際競争力強化の観点から国際標準化活動を実施。自国に有利な国際標準を策定し、不利な国際標準をつくらせないことを目指す。

4) IEC TC111

各国製品の環境規制のグローバル化への対応及び国際市場での「環境配慮製品」の自由流通の確保を目的に2004年10月に発足。

5) 欧州の標準化戦略

国際標準化における欧州のリーダーシップ確保とグリーン・デジタル移行の加速を目的。欧州規格をそのまま国際規格に持ち込みたい。ウィーン協定、フランクフルト協定が欧州を後押し。

欧州の標準化戦略は非欧州諸国に対し以下のような影響がある。

  • 非欧州諸国の視点や技術が反映されにくい。
  • 国際規格が欧州中心の内容になりがち。
  • 国際標準化の初期段階から関与できない。

6) 中国の標準化戦略

  • 政府主導型から政府・市場主導へ転換
  • 産業・貿易分野から経済・社会全体への転換
  • 数量規模型から品質効益型へ転換
  • グリーン関連標準強化

7) 米国の標準化戦略

  • 民間主導・政府支援の標準化体制の強化
  • 国際標準化への積極的関与
  • 重要・先端技術(CET)への重点投資
  • 透明性と公正な競争の確保

1) 日本の標準化事例

  • ダイキン工業の標準化による新興国等での事業拡大(エアコン冷媒)
    安全性が高く、温暖化影響の少ない冷媒をISO規格の変更によって採用可能にした。
  • 小口保冷配送サービス
    保冷荷物の扱いやサービスの質に関する要求事項を国際標準化することで、わが国の物流事業者の国際競争力強化。
  • 電力貯蔵用蓄電システムの国際標準化
    日立、東芝
  • 質の高い電力インフラの国際標準化
    JERA

2) 日本型標準加速化モデル2025公表(2025年6月)

  • 重要領域・戦略領域の選定
    環境・エネルギー、防災、モビリティ、バイオ、量子、情報通信、AIなど。
  • 特定分野における国主導の戦略的標準化
    量子、水素アンモニア、バイオ、データ連携基盤、ペロブスカイト太陽電池
  • 国内認証機関強化の必要性ととりくみ方針
    サプライチェーン情報等の機微情報が国内に留まる仕組みづくり、排出量取引制度に対応する国内認証機関への支援など。

1) サーキュラーエコノミーや気候変動への対応は国際競争力の鍵

世界的な環境政策の加速。ISO、IECの関連規格の整備も急速に進んでいる。

2) 欧州では標準化が産業政策と直結

欧州規格(EN)は法令と連動。企業活動に直接影響を与える仕組み。整合規格の採用は、製品の市場適合性を左右。

3) 環境関連情報の国際的な伝達が不可欠

サプライチェーン全体での環境データの共有が求められる。企業は標準化を通じて信頼性と透明性を確保する必要がある。

Q1トランプ大統領の政策で地球環境問題がないがしろになっている。今後の日本の地球温暖化対策(特に企業で)の取り組み方向について感想を聞かせてほしい。
A1トランプ大統領の政策に対して米国企業がどう反応するか気になっていたが、米国では投資家が優先されるので、トランプ政策は大きな影響はないと思う。トランプ大統領も投資家がどう見ているかが大事で、環境ビジネスへの投資も進めている。テスラの今後の動向も気になるところではある。
Q2「中国の標準化戦略」における数量規模型から品質効益型へ転換について少し詳細な解説をいただきたい。
A2中国や韓国は標準規格の提案をすると報奨金がもらえるので、質が悪くても提案数を増やそうということだった。最近、提案の質を高めようという方向に転換してきた。それによって、自国産業に有利な標準化を進めようという政策に変わって来た。
Q3欧州が取るCBAMは厳密に適用されると影響が大きいと思われるが、今回EUとトランプ大統領との間で合意された関税との関係はどうなるのか。
A3米国から欧州に鉄鋼やアルミがどのくらい輸出されるかにもよるが、米国もCBAMと同様な措置をとろうとしており、欧州とも政治的な駆け引きになるだろう。米国にとって不利な状況になれば動くと思う。関税の次はCBAMかもしれない。蓄電池、バッテリーがどうなるか心配だ。
Q4日本の戦略の話があったが、政府の方針は日本の利益を最大にするようなレベルでないように思うが如何か。
A4各国が標準化戦略を出している中で、日本政府も政策を出してきた。きっちりサポートすると言っているので評価したい。このままでは負けてしまうという危機感がある。欧州に対抗するデータ戦略としてはウラノス エコシステムがある。産業界もデータ連携に加わっている。
Q5 IECの国際議長になった経緯について聞きたい。
A5もともと日本は環境分野に強かったので、政府、産業界ともに国際幹事(期間限度なしで、影響力が大きい)を目指していたが、欧州各国が一枚岩になると数でかなわない。結果、選挙で国際議長(任期6年、延長3年)になった。日本には高い技術力があるので、国際議長のポストが獲得できた点ではよかった。以前にはフランスが立候補してきて数の力に負けたこともある。米国、英国は日本に好意的。中国や韓国は下のレベルのポストで頑張っている。中国は一帯一路があるので難しい。東南アジアは協力的である。
その他当日の講演にシーメンスは欧州で環境データ連携にサプライチェーンも含めており、それを世界に展開しようとしているという話があったことについて、企業にとってサプライチェーン情報は重要で、機密情報の場合もあるがどうなるのかというような質問があった。それに対して、シーメンスは欧州での成功を海外にも展開しようとしている。日本の産業界はこれに抵抗しているが、欧州では規格が法律に紐づけられるので、そうなると、抵抗できなくなる。注意が必要だとの説明があった。

以 上(安ヵ川昌史)

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