| 日 時 | 2025年12月12日(金)14:00~16:00 |
| 講 演 | 資本市場の急激な変化に企業はどう対応すべきか? -投資家から上場企業取締役に転じて感じたギャップ- |
| 講 師 | 中尾彰宏氏 日本電子㈱社外取締役 (元みさき投資株式会社マネージングディレクター) |
| 会 場 | スタジオ751+Zoom |
| 参 加 | 33名(後日視聴した者を含む) |

講演概要
(1)東証改革の本質的な狙いとは
- 投資家が期待するのは、企業が利益を再投資し、複利効果を生んでいるかである。つまりROEは複利のエンジンであり、PBRは複利が資本コストを持続的に上回っているかを峻別するバロメーターである。そして、複利とはリスクテイクそのものであり、日本企業の現状は欧米に比べて大きく劣後している。
- 資本効率を高めるには、リスクテイクに加えBSを適切にマネージメントすることも重要だ。
- 東証の改革は、プライム(旧東証一部)市場をグローバル企業中心に500社程度に絞り込むことを狙ったが、抵抗もあって最終案は1,842社とその通りにはならなかった。先進国市場では、上場企業数が半分程度に減ってきており、いずれ日本もそうなることが予想される。
- 機関投資家の投資プロセスを考えると、投資に当たっては時価総額500~1,000億円以上が必要だ。東証がグロース市場に求めた100億円では不十分で投資対象にはならない。
(2)アクティビズムの急激な変化動向とは
- 経産省が示した「企業買収における行動指針」は、a. 企業価値の原則 b. 株主意思の原則 c. 透明性の原則、の3つであるが、この中では企業価値の原則が最も重要である。企業価値はあくまで定量的にとらえるべきであって、経営者が保身を目的に曖昧にすることがあってはならない。そんなマインドでは、アクティビストに到底対抗できない。
- 今のアクティビストは、経営権に介入する、資金の出し手であるPEと連合する、MBO価格の妥当性に付け込む、であり唯一検討時間を確保することにしか正当性を認めない。
- 有事は突然には訪れない。定量的な企業価値を日頃から意識し、経営の支配権を巡る議論への備えをしておくべきだ。そして有事となったら、恐れずに議論のプロセスを公平、透明化することが肝要である。
(3)投資家から取締役に転じて感じる企業価値のボトルネックとは
- 社外取締役就任に当たって、持続的な企業価値向上を目指した議論をしようと呼び掛けた。実際に就任して、会社の「事業」に対する見立てに相違はなかったが、変革の蓋然性を決定づける「人」に関しては見切れなかったと感じる。外部の人間ではやはり限界がある。
- CEOの目線は高いか、変革の覚悟はあるか、変革のシナリオを言語化・数値化できる人材が社内に居るか、主体性がある組織風土か、取締役会が企業価値への感度を持ちながら適切なアジェンダを設定できるか、が「人」的要素のポイントと考える。
- 取締役会での議論で不足していると感じたのは、数字を交えた議論が少ないと言う定量性の欠落、議論自体が足りない事前性の欠落、マーケットの声が届いていないと言う市場性の欠落、である。上場企業は自らが支配権市場の俎上にあるという怖さを意識した方が良い。
(4)まとめ
- 日本の上場企業の課題は複利が回らない構造であり、東証はそうした企業は取捨選択されるべきと考えていると知るべきだ。それが東証改革の狙いだ。
- アクティビズムは企業支配権型へと急速にシフトしており、曖昧な経営の正しさは通用しない。
- KPIやアジェンダ設定に、社外取締役が執行側と一丸となる大事さを実感している。
Q&A
| Q1 | そもそも企業価値はどう捉えたらよいのか? |
| A1 | 会社の稼ぐ力、つまり将来のキャッシュフローをDCFで割り戻す方法が一般的だ。 投資ファンドなど誰が買うかによって、見る視点が異なる場合がある。例えばみさき投資では、ROIC>WACCを長期的に継続し複利効果が出ているかを判断材料としていた。 |
| Q2 | 取締役会における執行と監督の線引きをどう考えるか? |
| A2 | 例えば、執行役員クラスの人事が議論になることがあるが、それはCEOの役割で口を出さない方が良い。 監督と言う観点から重要なのは、取締役会のアジェンダ設定だ。直前の事前説明では遅く、できれば半年前から準備するよう働きかけることが重要だ。 |
| Q3 | アジェンダ設定で留意すべき点は何か? |
| A3 | 中期事業計画策定の段階で、やるべきテーマを考えておき、それを取締役会で議論するアジェンダと連動するよう設計すると良い。その為には、事務局の役割は重要だ。 |
| Q4 | ボード3.0における情報管理の在り方をどう考えるか? |
| A4 | 私のケースでは、みさき投資に在籍しながら日本電子の社外取締役をやることも可能ではあったが、会社の情報管理体制を考慮すると兼務しない方が良いと判断した。 投資のプロを社外取締役に招聘すること自体は良いが、日本はまだその辺の体制作りが出来ていない。これからの課題であろう。 |
| Q5 | リスクテイクとリスク管理をどう考えるか? |
| A5 | 今日の話では、リスクテイク=成長投資としている。 従って、リスク管理は失敗した際の財務的なリスクの想定や、あるいは投資の目的が達成できなかった場合のコンテンジェンシープランが用意されているかとなる。 |
| Q6 | 日本電子の統合報告書のキャッシュアロケーションに、R&Dを入れているのは何故か? |
| A6 | R&Dは定義上は販管費だが、会社の重要な成長投資である為、営業キャッシュフローから差し引いて独立した項目として表現している。 |
講演終了後、場所を変えて講師と参加者が懇談した。
以 上(小谷雅博)