2024年9月10日(火)15:00から17:00まで、演題「伝統工芸の今と生き残り そして地震」、講師:鏑木 基由 氏 (文化二年(1805)創業 九谷焼 鏑木商舗 八代当主(株式会社鏑木 代表取締役))による第7回地域デザイン勉強会が、航空会館901会議室およびZoomオンラインのハイブリッドで、各々35名、24名、計59名の参加者を得て開催されました。
能登半島地震の支援活動でDFメンバーが金沢を訪れた時鏑木氏にお会いし、伝統工芸を守り発展させるために積極的な改革を進め、地震復興に関しても独創的なアイデアを持つ素晴らしいお人柄に感激、是非ともとご講演をお願いして今回実現することになりました。
冒頭は星稜高校野球部で力を尽くしたが、江川卓の投球を見て野球を断念した話から始まりました。玉川大学文学部英米文学科に入学した2年後に父上が逝去、在学のまま鏑木商舗の八代目となります。仕事が忙しく出席を重んじる大学の進学が危うくなった時、大学の事務局長、理事長の「仕事を出席と認める」大岡裁きで無事卒業、特別に出席されていた小原芳明玉川学園理事長(当時は父上の小原哲郎氏)に改めてお礼の挨拶をする楽しい一幕もありました。
日本の伝統工芸は厳しい状況に置かれています。何と時給換算すると平均430円にしかなりません。まとめ役で売りてとして重要な役割を演じていた問屋が減っています。作り手の職人は、売れないので他の業種のアルバイトをし、子どもたちは儲からない親を見て跡を継ぎません。職人の平均年齢は75歳程となっています。国はクールジャパン政策を展開、職人に補助金を出して海外への進出を後押しします。
しかし、売り手には補助しないため、職人が海外の展示会などに出展しても営業ができず、ビジネスに結び付きません。このような現状を打破するために、日本料理屋に日本の食器や器材を使うことを条件にして補助金を出す提案をしましたが、経済産業省は首を縦に振りません。
鏑木氏は20歳で跡を継いで苦労して培ったノウハウを活かし、国内外で自分の寿命よりも先の完成を目指す夢に向かって、様々な試みをしています。国内では売れる場所に店を開き、海外の見本市では独自のルートで確立した最適な位置取りでブースを展開し、復刻版を創るなど、鏑木ブランドの確立を進めています。
酒は飲む器によって味が変化することを示すために、各々の酒に合った器作りにも着手、ワイングラスと九谷焼を合わせた製品を世に送り出しました。講演会では持参したグラスを回覧し、酒は試飲できませんでしたが、会場では実物に触れることができました。
百均やコンビニで安価に手軽に入手できる品物で生活する習慣は、伝統工芸の妨げとなります。 伝統工芸は便利と逆なのですが、その価値は高いものです。作り手が作った分だけ収入となる道を目指したい。技術を教える時間を仕事として捉え、教えられる人にその時間も給与を支払わねばならないような仕組みでは、教える人はいなくなります。作り手と売り手の良い関係を築き、努力を続けることによって伝統工芸は生き残ることが出来ることを信じています。
今年元旦に発生した能登半島地震ですが、増やす努力をしている観光客に対しては、安価で手軽な土産物を売るのではなく、伝統工芸のきちんとした品を作り、売るように心掛けています。国から多額の被災者支援のための予備費が出ていますが、被災家屋の撤去などが人出不足で進まず、使われない状態が続いています。補助金で店舗を再建したが、周囲は破壊されたままでお客が来ないというアンバランスも生じています。
そのような中「まず人間のことを考えるべきでは」などの批判を受けながら、放置された7,000匹の犬猫の面倒を見るボランティア活動も実施しています。日々のペットフードの確保が大変で、DFでペットフード企業に働き掛けることができる人がいたら力を借りたいと要請がありました。
以上のような、実体験した者でなくては語ることが出来ない内容の、素晴らしい講演でした。講演後も活発な質疑応答があり、今後地域デザイン総研とのコラボの可能性を強く感じる勉強会となりました。
以上(保坂洋)